地元の「食」を世界へ

生食に向かない「三陸産カキ」を使った「クリームコロッケ」。
一般に出回ることが少ない石巻産の深海魚「ノロンボ」のフライや「タコの皮」を使った揚げかまぼこを添えた「もったいない定食」。
年末商品の展示会でお披露目されたこれらの商品を手がけたのは、仙台市内の食品卸会社「かね久」の社長、遠藤伸太郎さんだ。

かね久 遠藤伸太郎社長:
地元のおいしいものがたくさんある。眠っている商品もある。食でもっと全国、世界にアピールする使命があると思っている
「食」に対する熱い思いを持つ遠藤さん。きっかけは、東日本大震災だ。
かね久 遠藤伸太郎社長:
震災が私の中ではすごく大きい出来事だった。地域の人たちへ恩返しというのもあって、地域のものを有効活用して商品開発し、全国へ発信していく活動を進めた
自宅を失い離れても 心に残る「故郷」

震災発生時は仙台市内にいて、石巻市にあった自宅に戻れたのは翌日の夜だったという。
そこで見たのは、水浸しになって湖のようになった地元の状況。
妻と3人の娘は無事だったが、津波によって自宅を失った。2週間ほど避難所で生活した後、仙台で生活を始めた。
仙台での生活を始めてからも、片時も頭から離れなかったのは「故郷」のことだった。
かね久 遠藤伸太郎社長:
避難所では食に関して不便なことが多かった。お役に立てないかと、炊き出しをしようとすぐに決めた。

仙台市産業振興事業団が、当時、中小企業の震災復興の取り組みを紹介した動画に、炊き出しをしている遠藤さんの姿がある。
遠藤さんには、活動の中で心がけていることがあった。
かね久 遠藤伸太郎社長:
みんな大変だが、温かいものを食べた時はちょっとだけでも忘れられる。とにかく温かいものの提供を心がけていた
炊き出しで気づいた 「故郷」の食の大切さ

炊出しを続ける中で、遠藤さんはあることを思いついた。「食」に関するアンケートだ。
100人の声を集めたそのアンケートは、自身のその後の仕事にとっても大きなヒントになった。
遠藤さんは2014年に前身の会社から営業譲渡を受ける形で今の会社を設立。
かね久 遠藤伸太郎社長:
地域のものを食べた時、みんな安心するということをすごく感じられた。
生まれたところの食材は思い出に残る。それで成長させてもらったということもある。
地域のものを有効活用した事業化、ビジネスにつなげることを意識した。
「コーディネーター」として 生み出した数々のコラボ商品

遠藤さんは自身を「商品開発のコーディネーター」と定める。いわゆる「卸」のスタイルから、様々な業種との連携による新商品の開発に力を注いだ。
ワインを楽しみながら映画鑑賞ができる「シネマリアージュ」という企画や、石巻市内の水産会社とタッグを組んだ「厚切り牛タンの煮込み缶詰」。

そして、「ずんだクレープ」。
「クレープえんどう」の名で、遠藤さんの次女・桃華さんが経営し、大阪に3店舗とシンガポールにもフランチャイズ店を構える。ずんだの認知度が低かった大阪で連日行列ができる人気だ。
社長になって11年、協力会社は50社以上、年間10件以上のコラボ企画を生み出してきた。
地産外消につながる商品開発を

ある日、遠藤さんは仙台市役所を訪ねた。まもなく発売予定のコロッケを試食してもらうためだ。
若林区のクラムチャウダー専門店が遠藤さんに商品開発をもちかけ、姉妹店であり、日本一にも輝いたハンバーガー店「ハリーズジャンクション」が作ったこのコロッケは、ホワイトソースに仙台市が消費拡大を図る仙台産の大豆「ミヤギシロメ」を使った。
かね久 遠藤伸太郎社長:
地産外消につながる商品。胸を張って全国に出せる商品だと思う。
試食した市の担当者は…
仙台市経済局 木村賢治朗局長:
塩加減と甘さとマッチしていてすごくおいしい。販路拡大になるし、生産者も意欲わくので非常にいい
レシピを開発したハリーズジャンクションの佐藤賢将代表も、「いろんな人をつないでくれて、個人の飲食店ではできないような動きができているので、ありがたい」と、コーディネーター遠藤さんの手腕を評価する。
生かされた使命 故郷への貢献と復興
これからは「魚離れ」からの復活にむけ地域の水産資源の有効活用にも力をいれていきたいという遠藤さん。
全てのベクトルは、地域への貢献、復興へと向いている。
かね久 遠藤伸太郎社長:
生かされた命、使命として何を後世に残すべきかを常に心がけていきたい。
「食」しかやってきていないので、「食」で恩返ししながら復興のモデルケースを作っていきたい。
震災を経て抱いた地域への強い思いを胸に、挑戦は続いていく。
仙台放送