長野県中野市で4人が殺害された事件の裁判。弁護側は、「犯行当時、心神耗弱の状態だった」として死刑の回避を求め、9月26日に結審した。最後に発言を求められた青木被告は、「人を殺して死刑になるために来た」などと、初めて自らの心境を語った。

法廷で被告が初めて心境を語る

「人を殺して死刑になるために来た」

これまで黙秘を続けてきた被告は、9月26日、初めて法廷で自分の心境を語った。

青木被告 初公判の廷内スケッチ(イラスト:一色こうき)
青木被告 初公判の廷内スケッチ(イラスト:一色こうき)
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殺人の罪などに問われている中野市の青木政憲被告(34)。

起訴状などによると、2023年5月、散歩中の女性2人と駆けつけた警察官2人をナイフと猟銃で殺害したとされている。

青木被告はこれまでの裁判で、一貫して黙秘を続けてきた。

検察側「死刑選択やむを得ない」

裁判の争点は、「責任能力」と「量刑」で、検察側は、「犯行当時、完全な責任能力があった」と主張しているのに対し、弁護側は、「精神疾患により、善悪の判断力などが著しく低下している心神耗弱の状態だった」と主張している。

長野地裁(2025年9月24日)
長野地裁(2025年9月24日)

9月24日の裁判で、検察側は「犯罪の重大性を的確に認識していて、善悪の判断力はあった。他に類をみない悪質な犯行で、妄想症を考慮しても死刑を選択することはやむを得ない」として、死刑を求刑した。

弁護側「死刑は回避されるべき」

9月26日は弁護側の最終弁論が行われ、「社会の多くの人から『ぼっち』『きもい』と言われているという妄想の強い影響により、善悪を判断し、その判断に従った行動をとることは著しく困難な心神耗弱の状態だった」とした。

事件現場(2023年5月)
事件現場(2023年5月)

その上で、「被告人本人が精神障害に気づくことは難しく、生まれてから一度も立ち直りの機会を与えられていない」として「死刑は回避されるべき」と訴えた。

「人を殺して死刑になるために…」

弁論の後、裁判長から発言を求められた青木被告。静かに証言台の前に立ち、ボソボソと話し始めた。

裁判長:
「最後に何か言いたいことはありますか」

青木被告:
「私は異次元存在から迫害を受け、人を殺して死刑になるために来た。もう二度とプレイしない。被害を受けた人には埋め合わせがあるだろう。中の人たちを傷つけて申し訳ない。ここは私にとって仮想空間なのでプレイという表現になった」

青木被告
青木被告

法廷で初めて、自らの心境を語った青木被告。裁判長から「もういいですか」と聞かれると、うなずいて発言を終え、裁判は結審した。

裁判の争点は被告の「責任能力」

裁判の最大の争点が被告の「責任能力」。被告に精神障害があり、事件の1年ほど前から被害女性2人から「ぼっち」と悪口を言われているという妄想を抱いていたことは検察側、弁護側とも共通している。

一方で、主張が分かれているのが、「妄想が犯行に影響を与えたか」について。

検察側「合理的な行動とれていた」

検察側は、「犯行を目撃され、通報されると思っていたこと」、母親に「絞首刑は嫌だ」と言っていたことなどから、「犯罪の重大性を的確に認識していて、善悪の判断力はあった」としている。

青木被告の移送(2023年8月)
青木被告の移送(2023年8月)

また、あらかじめ凶器を用意するなど計画性があったこと、目撃者には危害を加えていないことなどから、「犯行当時、自身をコントロールできていて、合理的な行動がとれていた」と主張している。

弁護側「心神耗弱の状態だった」

一方、弁護側は、犯行時の被告は「統合失調症の症状が再発した状態で、正気と異常な状態を本人が認識できていなかった」としている。

事件現場(2023年5月)
事件現場(2023年5月)

その上で、4人の殺害は、「妄想に支配された行動で、善悪を判断し、その判断に従った行動をとることは著しく困難な心神耗弱の状態だった」と主張している。

心神耗弱が認められると、刑は減軽される。

判決は10月14日

検察と弁護側が提出した証拠と、8人の証人の証言、そして、被告の発言をもとに、裁判官と裁判員は判断することになる。

今後、2週間ほど裁判官と裁判員が量刑などを検討する評議が行われ、10月14日に判決が言い渡される。

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長野放送
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