一般的には「両方」なのだが、入院費に関しては入居していた施設の人からの説明で、預かり金がある様子であった。すぐに私は保証人の書類にサインをした。
頼りの甥が何もしてくれず
実は皆川さんは、数年前にエンディングセンターと「死後サポート委任契約」を結んだ。しかし「甥が面倒を見てくれると言ってくれた」というので、契約を解除した。
うれしかったのだろうか、未婚で子どものいない皆川さんは、甥を相続人にした遺言書を書いた。ところが、甥は子どもの行事で忙しいからと、何もやってくれなかった。
そのような事情をエンディングセンターに相談したいと考えていた矢先に、緊急入院となってしまった、というわけである。
甥は皆川さんの入院に際しても関わろうという意志はみられなかったと、皆川さんが入居している高級高齢者施設の担当者が教えてくれた。
本来ならば委任契約を結んでいないので、エンディングセンターは保証人を引き受けられない。エンディングセンターが医療費の返済義務や死後の遺体の移送の義務を負うことになるので、そのお金の出所が保証されていないことになる。
契約なしにお亡くなりになれば、死後のことは手を出せないが、ご本人が存命であって判断能力があれば、そして双方が承諾すれば、保証人になることができる。
なぜ決断したのかというと、解約したけれどかつての契約書類があったのですぐに再契約すればいいと考えたことと、皆川さんが入居している施設がエンディングセンターと連絡を取り合って事情などを話してくれていたからだ。
皆川さんは、このあと無事退院することができて、エンディングセンターと死後事務委任の契約を済ませた。

井上治代
社会学博士。東洋大学教授を経て、同大・現代社会総合研究所客員研究員、エンディングデザイン研究所代表。著書に『現代お墓事情─ゆれる家族の中で』、『いま葬儀・お墓が変わる』、『最期まで自分らしく』、『墓をめぐる家族論─誰と入るか、誰が守るか』、『墓と家族の変容』、『子の世話にならずに死にたい─変貌する親子関係』、『より良く死ぬ日のために』、『桜葬─桜の下で眠りたい』ほか多数。