2025年は戦後80年の節目を迎える。それに先立ち、鹿児島県南九州市の知覧特攻平和会館では、新たなオルゴールの展示が8月5日から始まった。特攻隊員にまつわる曲を奏でるこのオルゴールには、平和への切なる願いが込められている。
「月光」を奏でるグランドピアノ型オルゴール
知覧特攻平和会館は、太平洋戦争末期に知覧をはじめとする九州各地から出撃した1036人の特攻隊員の遺影や遺品を展示し、戦争の悲惨さを現代に伝える施設である。

新たに展示されることになったのは、グランドピアノを精巧に模したオルゴールだ。このオルゴールが奏でる曲は、ベートーベン作曲のピアノソナタ「月光」。出撃直前の特攻隊員が惜別の曲としてピアノで演奏した逸話で知られるこの曲は、ゆっくりと静かな曲調に悲しみが滲み出る。

伝統工芸「川辺仏壇」の技が光る
このオルゴールを製作・寄贈したのは、鹿児島県川辺仏壇協同組合である。知覧と同じ南九州市の川辺地区は仏壇、仏具の山地として知られ、「川辺仏壇」は国の伝統的工芸品に指定されている。戦後80年という節目に、平和への思いを新たにするために製作されたこのオルゴールは、全て職人たちの手作業によるものだ。
川辺仏壇の特徴である深い黒の漆塗りと、精密な彫刻技術によって鍵盤に至るまで美しく仕上げられており、伝統工芸の技術が遺憾なく発揮された作品となっている。

県川辺仏壇協同組合の橋口知由さんは、「知覧特攻平和会館にもう一つ素晴らしいモニュメントができたと思う。私たちの培った技術でこれから二度と戦争が起こらないように、こういう思いで特攻隊員が旅立ったということを皆さんに知ってほしい」と語り、製作の思いを明かした。

平和への祈りを未来へ
知覧特攻平和会館の川崎弘一郎館長は、「80年前このような形で特攻隊として飛び立った方たちの思いを知って、それぞれ考えてもらえればありがたい」と述べ、このオルゴールが戦争の記憶と平和の尊さを伝える新たな展示品となることへの期待を示した。
平和への祈りが込められたこのオルゴールは、5日から知覧特攻平和会館のロビーに展示されている。多くの来館者がこの美しい音色に耳を傾け、80年前の悲劇と平和の大切さに思いを馳せることだろう。

また、2025年10月からは南九州市のふるさと納税の返礼品としても提供が始まる予定だ。これにより、知覧の地を訪れることができない人々にも、特攻隊員の思いと平和への願いが届けられることになる。
戦後80年の節目に展示されるこのオルゴールは、戦争の悲劇を風化させないための大切な「音の証言者」として、これからも静かに、しかし力強く平和の尊さを伝え続けるだろう。
(動画で見る:知覧特攻平和会館 オルゴールの展示始まる 奏でる曲はベートーベン・ピアノソナタ「月光」 出撃直前の特攻隊員が惜別の曲としてピアノ演奏)