私はこれまで著書や講演で、「性加害は、言い換えると誤ったストレスコーピング(対処行動)の結果である。単なる性欲の問題ではない」と述べてきました。
痴漢や盗撮などの性加害が、彼らの抱えるストレスや生きづらさを一時的に緩和する手段として用いられているのです。これこそが、反復的な性加害の理解の難しさといえます。
元高校球児は法廷で、仕事でのストレスが募り、そのはけ口として犯行に及んだと述べていましたが、これに対し検察官は「いまの時代、ストレスがない人はいません。皆が皆、ストレスが溜まったからといって性加害はしませんよね?」と強い口調で投げかける一幕がありました。これは一般の方の感覚にとても近いでしょう。
現代では誰もが大なり小なりストレスを抱えていますが、多くの人は自分に合った適切な対処法を身につけています。

「こうすれば自分はストレスに押しつぶされずにいられる」という自分なりの対処法を繰り出しつつ、ストレスの多い日々をなんとか生き延びているわけです。
しかし、痴漢をはじめとする性加害者の多くはそれができていません。ストレスコーピングの選択肢が少なく、弱音を吐けない、他者に相談することができない、助けを求められないという特徴があります。
とくに勤勉で仕事も真面目に取り組む人が、仕事への耽溺(たんでき)がトリガー(引き金)となって再び性加害に至るケースをこれまでたくさん見てきました。
上司に人格を否定された、ノルマが達成できていない決算月で残業が過労死ラインを超えている、といった出来事がトリガーとなって、いわば自己否定的な感情を低減させるため、痴漢行為に耽溺していきます。
ターゲットを巧妙に選んでいる
さらに注目すべきは、彼らの行動が計画的かつ目的にかなっていることです。
よく私が言うのが、「彼らは交番の前では決して性加害をしない」ということです。彼らは場所や時間やターゲット、状況を巧妙に選んでいるのです。

痴漢被害に遭うのは圧倒的に女子中高生が多いのですが、それは制服が従順の象徴として、加害者の支配欲というトリガーを刺激する一種の記号となっているからです。彼らは「ノーと言えない、警察に訴え出なさそうな相手」を選んでいるわけです。
性加害者のなかには、加害行為について「達成感」「生きがい」「RPG(ロールプレイングゲーム)」と表現する者もいます。
痴漢をしたときの詳細をコツコツと手帳に書き込み、スキルアップしていくゲームにたとえる者さえいるのです。彼らにとってはそうした複合的な快楽が凝縮した行為となるため、非常に習慣化しやすく、なかなかやめることができません。