昭和100年のいま、昭和のレトロスポットを紹介します。舞台は北陸新幹線の福井開業に伴う再開発により、刻々と変化する福井駅前。昭和の雰囲気をそのまま閉じ込めたようなレコード店や、福井駅前で生まれ育った住民の思い出のスポットを巡りました。
昭和の雰囲気残るレコード店
福井駅前に店を構える日比谷楽器店。入り口には演歌歌手のポスターが貼られ、J-POPアーティストも扱うことを知らせる手書きポップも添えられています。ここは、CDやカセットテープなどを販売する創業60年余りのレコード店。昭和の雰囲気を閉じ込めたような場所です。
演歌やポップス、アイドル系など、さまざまジャンルの作品が所狭しと並んでいます。希望する商品がなければ、注文を聞いて仕入れてくれる販売スタイル。
客は「古い曲を売っているところがあまりないから。(美空)ひばりちゃんの、あった。私の時代やったんや」「古いCDを探すときに、他店で探してなかったら、ここに確かめに来る。10年、20年前のCDシングルがそのまま置いてあって色が日焼けしているけど、中身は一緒だからいい。他の店にはないものがある。福井のCD店をあちこち探してもここにしかなかったのが、このフォークソングニューミュージックのベスト盤。いつかお金に余裕ができたら買おうかと思っている」と楽しそうに品定めをしています。
店同士のつながりも濃かった昭和
接客をするのは2代目の村田昌之さん(61)です。2年前、親の引退を機に土日のみ店を開いています。
かつてはレコードだけでなく、幼稚園や小学校などで使うタンバリンや鈴などの楽器販売も行っていたという日比谷楽器店。「私が子供の頃は飲食店をまわる“流し”の人がいて、その人がギターの弦を買いに来た」と当時を振り返ります。
「ちょうど(現在は)恐竜がいるところに福井駅舎があってパン屋もあったのだけど、“およげたいやきくん”がレコードで大ヒットしたので、パン屋でたい焼きを売っていた。うちで曲を流すとたい焼きの売れ行きがよかったらしく、よく差し入れをもらった」と店同士のつながりも話してくれました。
様変わりした場所も
福井駅の近くで生まれ育った、まちづくり福井の前会長の岩崎正夫さんは「当時はだるま屋が家族で行く憧れの場所だったので、駅前は晴れの場。おしゃれして行く場所だったが今は気軽に来てもらえる場所になった」と変化を口にします。
岩崎さんは当時、日比谷楽器店と同じ通り沿いにある放送会館をよく訪れていたといい「昔は、福井放送会館は地下と1、2階くらいまでがデパートとして物を売るフロアだった。その売り場でおばが働いていて、よく遊びに来ていた記憶がある。あまりその面影は見られない」と話します。
1962年に開業した福井放送会館デパートは市民に親しまれていました。2004年頃から売り場の規模縮小をし、2007年のリニューアル工事でデパートの看板を下ろしました。現在はオフィスビルとしてその役割を果たしています。
北陸新幹線福井開業により、福井駅前は再開発が一気に進められ街は様変わりしました。岩崎さんは「日中に働く人も増えてきていて、平日のにぎわいを作ってくれたり、働く人の中で新しいものが生み出されている。新たな取り組みが駅前から出てくると、ものづくりとしての福井らしさを出していける」と福井駅前の今後を描きます。
変化する街で変わらないまま…
再開発が進む一方で、日比谷楽器店の前を通る人の数は減りました。村田さんは「土日しか店を開けていないので申し訳ないと思っているが、平日は人通りも少なく店を開けていても…とは思う。時代の流れなので、我々もそれに沿った形で商売をしていかなければ。それにしても、昔からあるこの在庫をどうしたものか」と頭を悩ませます。
福井駅前の再開発で誕生した新たな商業施設に出店しているのは飲食店が中心で、村田さんは「小売店は取り残されがち」と感じているといいます。自分たちは新たな店舗を構えるほど資金的にも体力的にも余裕がなく、大量に抱えている在庫をどうしたものか…というのが現状とのこと。
福井駅前が変化を続ける中、昭和の雰囲気を残したままの店で、村田さんは今日もスピーカーの音量を少しだけ上げて、お店の存在をアピールしています。