中国人の日本への団体旅行が8月10日に解禁された。これまでよりも多くの中国人が日本を訪れることになる。いわゆるインバウンド効果も期待されるが、その中国人の行動に懸念を覚える方も多いだろう。
「中国人は日本の事が『好き』じゃない。『大好き』です」(ある外交筋)との声もある中、彼ら彼女らと一体どう接すればよいのか?日本人と中国人、両者の「常識」の違いを理解すれば、その方法が見えてくる。
“上半身裸”に“おむつなし”
夏の北京で、上半身に何も着ない男性を時折見かける。
今では見る機会もだいぶ減ったが、それでも北京の夏は非常に暑いので気持ちは分かる。
でも自分には出来ない。
以前の中国は、上半身裸の男性だけでなく、おむつを着けない乳幼児もよく見かけた。ズボンは股の部分がもともと開いていて、いちいち上げ下げしなくても用を足せる、効率的な作りだった。
自分の心地よさや感覚が他人の目や社会通念を上回っていたのだと感じる。
良く言えば常識の範囲が日本よりも広く、人々にもそれを受け入れる土壌がある。
他人をそれほど気にしなくてもいい社会は、日本よりも気楽である。
まずやってみる中国人
加えて言えば、中国人には「まずやってみる」という意識が強い。
日本をよく知る中国人に聞くと
「日本人は、やってもいいかどうかを聞く」
「中国人は、やってはいけないことを聞く」
というのだ。出来るかどうかを確かめる日本人に対し、禁止事項を確認する中国人。
つまり中国人には「やってはいけないこと以外は全てやっていい」という認識が強いようだ。
事前に確認するのはまだ良い方で、いずれにしても「やりたいことをまずはやってみる」のが基本だろう。
先日、北京市内の喫茶店でその店の商品を買わずに弁当を食べている人がいた。しかし店員も注意することはなかった。「喫茶店で弁当を食べるな」という貼り紙はないが、その客(?)の図太さとには恐れ入るばかりである。
こうした振る舞いが中国人の強さであり、奔放さであり、日本人には違和感や嫌悪感にも繋がるのだろう。
行動に移す前にリスクや対策を考える日本人と違い、中国人はやってダメならその時に考える人が多いようだ。
中国人との“接し方”
そんな中国人の日本への団体旅行が8月10日に解禁され、より多くの中国人が日本を訪れることになる。インバウンド効果も期待されるが、中国人との軋轢を心配する人もいるだろう。
ただ、日本と中国の常識には差異があり、ごく単純に言えば、彼らは日本の常識を知らないだけともいえる。
他人を気にしない、まずやってみる、禁止以外はOK。
これが彼らの“常識”で、日本語で書かれた注意事項、禁止事項を理解するかどうかは心許ない。
「日本の常識をわきまえない中国人には来てほしくない」という主張もあるだろう。
「郷に入っては郷に従え」は道理である。
マナーやルールに関する認識の差はいかんともしがたいところだ。
ただ一方で、日本経済にとって中国人が落とすお金は大事な要素の一つだ。
甚だ極端な例になるが、礼儀正しいが金を使わない客と、礼儀やマナーはあまり良くないが金を使う客、どちらが企業や店にとって好ましい客なのだろうか。
故意や悪意のある客であればともかく、知らない善意の客であればルールを教えればいい。
「とにかくやってみる」という思考の中国人であればこそ、悪意のない人が多いことも中国にいると実感する。
もちろんバランスや程度の問題もあるので、ダメなことは毅然として断る勇気も必要だ。
ちなみに、中国に相対する外交官は、時に居丈高で不条理な中国の態度と、日本の国益確保との間で常に悩まされている。相手の主張も通り一遍で柔軟性がなく、交渉もかみ合わないことが多い。
日本企業は、中国が設定するルールと企業利益の板挟みに置かれているのが常だ。
中国で活動する日本人は決して親中などということはなく、むしろ中国に一番苦労させられている人たちだと思う。
翻って考えると、日本のサービスやマナーの良さは卓越したものであることが中国にいるとよくわかる。そんなことも影響しているのか、中国人の日本好きは想像以上のようだ。
北京では、コロナ禍で1日数百だった日本へのビザ申請が、“ゼロコロナ”終了後、個人旅行だけでも「ケタがひとつ多くなった」(日中外交筋)という。
それだけ日本は魅力のある場所だということだろう。
「中国人は日本のことが好きですよね」とある外交筋に水を向けたところ「違います。大好きですよ」という答えが返ってきた。
変わる中国 変わらない日本
車の無人運転などに代表される中国の技術発展のスピードは日本よりも格段に速いと言われている。試験段階でのトラブル、特に人身に関わる事故が起きれば日本は全てがストップするが、中国はその経験を糧にさらなる前進を図るからだ。
リスクの捉え方の違いもあるだろうが、極端な言い方をすれば社会の発展や便利さが、個人より優先され、その目標に向かって邁進するのが中国である。
当局の決定が絶対であることもそれを後押しし、うまくいかないと分かったときに撤退する決断もまた迅速だ。
相対的に見れば日本は変わらない、ないし変わるスピードは遅い。
「変わらない日本」というのは中国に暮らす日本人の多くが実感していることだろう。
それは変わらないことへの安心と、変わらないままで大丈夫かという不安の2つの側面がある。
もはや良い悪いではなく「違う」としか言いようがない日中両国だが、中国が変わる速さも「まずやってみる」考え方がその背景あるようだ。