一本足の看板を探せ

犯行前日の早朝に河川敷で拳銃の試し撃ちをした話について裏付け捜査が行われたのは96年6月から7月にかけてである。

拳銃で撃ちぬいた跡があるはずの「一本足の看板」探しには、新宿署12階に残っていた公安一課調査第五担当、通称「ちょうご」の捜査員15名が投入され、東京東部にある隅田川、荒川、江戸川などの河川敷で行われた。

夏の河川敷を捜査員はひたすら歩き“穴の空いた看板”を探した 資料:荒川河川敷

捜査員が、穴の開いている看板がないか探し続けること2週間。足を棒にして歩いた捜査員はついに利根川まで辿り着く。

その間、北千住近くの河川敷で、穴の開いた看板1枚を発見した。

看板を鑑定したが、長官事件とは違う銃で撃たれたものであることが判明する。捜査員が歩いた距離は計450キロに及んだが、河川敷での試射は裏付けることができなかった。

職務質問をした警察官を探せ

またXが「警察官から職務質問を受け名刺を出した」と自ら話したことについての裏付け捜査は5月頃から始まった。

「制服警察官からの職質だった」と証言したことから南千住署地域課に所属する制服警察官全員に「事件数日前に職務質問を行ったことはないか」と聞き取りを行ったのだ。

Xが職務質問を受けたと証言した場所 左側には「クリスマスツリーのような木」が植えられていた
Xが職務質問を受けたと証言した場所 左側には「クリスマスツリーのような木」が植えられていた

犯行現場近くには警視庁本部所属の第二自動車警ら隊(通称にじら)の分駐所もある。自動車警ら隊の隊員も制服勤務であることから、特捜本部は「にじら」の隊員からも話を聴いたが、職質した者は一向に現れない。

捜査員は南千住署署員、「にじら」隊員など可能性のある制服警察官にはしらみつぶしに聴いた。そして時期を少し置いて7月には2回目の一斉聴取を実施する。何度も聴取することで誰かが思い出したと言ってくることを期待した。

しかし職務質問したと名乗り出る者は現れない。職質警察官の割り出しは難航を極める。

南千住警察署
南千住警察署

さらに時間を置いて、9月には3回目の一斉聴取を敢行した。しかし3度目の正直の願いもむなしく、X供述の裏付けとなるような職質話は出てこなかったのである。

この結果に石室や栢木は落胆した。

職質の話はX自らが自発的に明かした供述だった。その時点で職質した警察官以外、石室、栢木ら南千住署特捜本部員はおろか誰も知らなかった話である。

裏が取れれば、事件前の下見がX本人の暴露によって明確に裏付けられる重要な状況証拠になるはずだ。特捜本部は職質した警察官は誰なのか、引き続き追うことになる。

一方、サンシャインシティでの取り調べの中で、Xから新たな証言が出てきたのも、裏付け捜査が始まったこの頃である。