米国人が勘違いに気づき始めた?
米国人の多くが、関税は輸出国が支払うものだと思っていたらしい。
米国の経済紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)電子版14日に掲載された社説の見出しには正直驚いた。
「関税は誰が払うものなのか、我々はようやく知った」
さらに、同記事を紹介するX(旧ツイッター)にはこうある。

「トランプは有権者に対し、彼の関税は外国が支払うと約束している。しかし、生産者物価指数のデータは、経済が別の動きを示しているようだ」
まさか、WSJ紙が知らなかったわけではないだろうが、トランプ政権は諸外国に課している関税は輸出国が負担するものだと国民をいわば洗脳していたのが、ここへきて関税が米国の物価に悪影響を及ぼし始めると、ようやく自分たちが支払うものだということを自覚し出したというのだ。

ちなみに日本では、子供でも知っていることのはずで、朝日小学生新聞電子版4月4日では「関税」を次のように説明している。
「海外の商品を輸入する場合に課せられる税金。商品を輸入する人や業者がしはらいます。商品を売る値段に上乗せされるため、関税が高くなると売れ行きに影響をおよぼします」
トランプ氏「関税は輸出国が負担する」
しかしトランプ米大統領は、かねて関税は輸出国が負担するものと国民に言ってきた。ネットで検索すると、政権第1期の2019年5月に「中国が米国に関税を払っているのであって、我々の消費者ではない」と断言している。
その後第2期目を目指した選挙運動でも「関税は外国が払っている。我々が払っているのではない。彼らが払っているのだ」と繰り返し言っており、2回目の就任式の演説でも次のように述べている。

「我々は国民に課税して他国を豊かにすることをやめる。その代わりに、外国からの輸入や外国そのものに課税して、我々の国民を豊かにする」
トランプ大統領が関税のなんたるかを知らなかったはずはないが「トランプ政権は国民を豊かにする」というメッセージを効果的に伝えるために、関税の意味を歪曲して利用したもののように思える。
苦しすぎる経済担当側近の説明
放言居士として知られるトランプ大統領ならば言いっぱなしですむが、困ったのが経済問題を担当する側近たちだ。
日本との関税交渉に当たったスコット・べッセント長官もその1人だ。 同長官は7日MSNBCテレビに出演し、トランプ政権の関税政策をめぐってキャスターのユージン・ロビンソン氏と次のようなやりとりをした。

ロビンソン氏:
もし米国の輸入業者が今日か明日、ブラジル製品を購入して輸入するとしたら、その人は財務省に50%を払うことになりますね。では、誰がその小切手を書くのですか?
べッセント長官:
いくつか申し上げたいことがあります。まず、代替調達が可能です。ブラジルからしか入らないものはほとんどなく、アルゼンチンや他の国からも…。
ロビンソン氏:
仮にブラジル、つまり関税対象国から製品が来るとして話を進めてください。誰が財務省に小切手を書くのですか?
べッセント長官:
小切手を書くのは、米国の港で貨物を受け取る人です。
ロビンソン氏:
つまり、関税は米国内の輸入業者が払うということですね?
べッセント長官:
ブラジルの輸出業者が市場シェアを維持したければ、関税分を値下げして実質的に負担することもあるでしょう。
ロビンソン氏:
でも港で小切手を書くのは輸入業者ですよね?
べッセント長官:
(投げやりな口調で)うん(yep)。そして輸入業者はそれを転嫁することも、しないこともできるんですよ。
大統領の説明を逸脱しないようにぬらりくらりと答えをはぐらかせていたが、ロビンソン氏にとどめを刺されてしまった。
翌日の隔週刊誌ローリング・ストーン電子版は「トランプの関税は米国人が払うものと財務長官が認めた」と大きく伝えた。

冒頭のWSJの社説は、関税の消費者物価への影響はすでにインフレ統計などに反映されているとした上で、次のように警告している。
「もし関税による価格上昇が一時的であれ持続的であれ、より大きな賃金上昇で相殺されない場合、共和党は政治的な危険地帯に足を踏み入れることになるだろう。バイデン政権が犯した過ちと同じく、『経済は絶好調だ』と言い張っても、スーパーやファミリーレストランでの現実がそれと矛盾すれば、有権者は信じない」
(執筆:ジャーナリスト 木村太郎)