鹿児島・西之表市の馬毛島で米軍の訓練移転や自衛隊施設整備の工事が始まり2年。西之表の市街地は工事関係者が増加し宿泊施設が不足、交通量も増えている。一方で馬毛島周辺の漁の制限で漁獲量が減少するなどの影響も。こうした中2月2日に行われた西之表市長選で3期目の当選を果たしたのは、2期目途中から計画への賛否を明言しなくなった現職・八板俊輔氏だった。

種子島の西にある馬毛島はかつて人が住んでいたことも

馬毛島は種子島の西方12キロの東シナ海に浮かぶ。

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面積は8.20平方キロ、周囲が16.5キロで、種子島同様あまり起伏のない平坦な地形だ。かつて人が住んでいたこともあるが、島に川がなく農業に適さないことなどもあり、1980年に無人島になった。

米軍訓練移転や自衛隊施設整備工事進むも遅れで工期延長

その馬毛島で2023年1月、アメリカ軍の訓練移転や自衛隊施設の整備のための工事が始まった。

工事が始まって2年、上空から見た馬毛島沿岸ではクレーン付きの台船が多数稼動し、陸では至るところでトラックが土を巻き上げながら移動していた。土をならした状態の人工的な道が島全体に縦横無尽に通っていて、飛行機の滑走路や誘導路などの土台と思われる。

着工1カ月後の時点では、ほぼ自然なままの姿で、この2年でたたずまいが大きく変わったのが分かる。しかし本来なら、着工から2年で滑走路が完成している予定だったが、まだ舗装はされておらず、防衛省は、おおむね4年としていた工期を、3年間延長すると発表した。

着工以降、宿泊施設は慢性的に不足し観光に影響

工事に伴い、馬毛島を含む西之表市には2024年12月時点で4500人を超える工事関係者が滞在しているという。
馬毛島にも仮設のプレハブ小屋が多く建てられているが、工事開始以降、西之表市街地の宿泊施設は慢性的に不足し、最近は不足に拍車がかかっているという。

ダイビングショップ「種子島Sea-Mail」を営む林哲郎さんは、「工事関連の人が着工前の3倍4倍に増え、観光客が泊まるところがない。2年前と比べさらに厳しくなってきた」と感じていた。工事が始まった頃は、ダイビング客から「泊まるところがない」「手配してもらえませんか」という問い合わせが多かったため、林さんは観光客向けに簡易の宿泊施設を建てた。しかし、「このところ観光関係は宿泊施設やレンタカーがないことで激変している」と頭を抱える。

着工にあたっては、「島の経済などが浮上するようであれば」と、計画に賛成していた林さんだが、「2年間で工事関係者と観光客に格差が出てきた」のを感じ、少しずつ心境に変化が出てきたと語る。「『前と僕の思いは変わりません』と言ったら絶対嘘になる」と言い放った。

人の出入りは多いが観光にはかげりが 感じる危機感

宿泊施設を経営する荒木政臣さんも、「着工当時と変わらず、工事関係者の宿泊が多い。ほぼ満室状態が続いている」と話す。そこで、元々宴会場だった部屋を改築するなどして、着工前より40部屋以上増やした。

自身の施設は活況を呈しているが、荒木さんは「人の出入りは多くなったものの、街のにぎわいとしては想定通りではない」と不安を漏らす。そして、「地域で一緒に団結をして観光を盛り上げていかなければ。このまま忘れ去られてしまってはいけない」と危機感を募らせている。

漁が制限されすし店は休業 工事終了後が不安

民宿直寿司の瀬下直孝さんは、国道沿いで民宿とすし店を営んでいる。

瀬下さんも「とにかく人が増えた。ちょっと買い物行くにも車ばっかり通っている」と、この2年間での人や車の増加を感じていた。
工事により馬毛島周辺の漁が制限され、馬毛島への交通船の業務に従事している漁業者もいる。そのため西之表市での漁獲量が減少した。瀬下さんは以前、すし店を営んでいたが地魚が入荷できなくなったため、2年がたった今も休業している。ショーケースは空のままだ。

「魚があがらないし、高いし。だから冷凍のマグロとかをよそからとった方がいいんだけど、運賃がかかる。厳しいんですよ」と苦渋の表情。一方民宿の方は、工事関係者で6割ほどが埋まっているというが、「今までは助かったけど、いなくなってからどうなるかな」と不安を口にする。

2月2日の西之表市長選挙で現職が3期目の当選

工事が始まって2年が経過した西之表市。市民の生活が大きく変化している中で市長選挙が行われた。今回の市長選も、馬毛島計画は大きな争点となっていて、過去最多だった2017年に並ぶ6人が立候補した。

この6人の候補者のうち4人は馬毛島計画に賛成、反対が1人、残る1人、現職の八板俊輔氏(71)は選挙戦でも「市民のために最善の道を切り開く」として、賛否を明言しない姿勢を貫いた。開票の結果、八板氏が3期目の当選を果たした。

あらゆる産業が潤い観光の総合力を上げてほしい

市民は、次の市長に何を求めるのだろうか。

投票日を前に民宿直寿司の瀬下さんは「どちらかというと賛成派だから、突き進めてもらいたい。農業も漁業もみんなが潤ったらいい」と、馬毛島計画に希望を込めていた。

宿泊施設を経営する荒木さんは、「島の観光の総合力という面では、幅広い産業に対してしっかり下支えをしていかないといけない」と話し、行政による観光振興へのバックアップを求めた。

工事後の世代に何が残るか考え行動する強力な首長を

3期目の当選を果たした八板氏は、選挙期間中「失うものを超える恩恵を引き出さなければならない。そのために正確な情報と判断材料を国に求めていく」と訴えてきた。
八板氏の3期目の任期中に、アメリカ軍による離着陸訓練が始まる可能性もあるという。ダイビングショップを営む林さんが、切り出した。

「いま恩恵を受けている人は、自分たちの世代はいいかもしれない」「しかし、工事が終わって、子どもや孫の代になった時に、何が残るか。それを考えて国と交渉するような、強力な首長が欲しい」と力を込めた。

投票日翌日、当選証書を受け取った八板氏は、報道陣の取材に「馬毛島については国の協力、受注業者の協力を得ながらしっかり対応したい」と語った。

街を揺るがす国家プロジェクトにどう向き合うのか。工事が終わった後に残るものは何か。
今後もそれぞれが考え続ける必要がある。

(鹿児島テレビ)

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