鹿児島・西之表市の馬毛島で、アメリカ軍の訓練移転や自衛隊施設の整備のための工事が始まって1年。上空から見た島の様子は、大きく様変わりしていた。鹿児島テレビでは、ある工事関係者に接触し、話を聞くことができた。どんな工事が進み、作業員はどんな生活を送っているのか。 

上空から見た馬毛島の様子

2024年1月11日。ヘリコプターから見た馬毛島のたたずまいは、緑が明らかに減り、土がむき出しの茶色い島になっていた。 

馬毛島の1年間の変化
馬毛島の1年間の変化
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鹿児島テレビでは、着工後1カ月、3カ月、半年と定期的に島の撮影を継続。半年前に取材した時は島の中央部を中心に工事が進んでいたが、着工から1年たち、半年前には工事の様子が見られなかった南側でも工事が進み、コンクリートの物体が確認できた。

島の東側にある馬毛島小中学校跡地の近くでもプレハブや重機が確認できた。また西側では、土の壁に囲まれた中にオレンジ色の小屋のようなものが確認できるなど、至る所で工事が進められていた。 

馬毛島ではどんなことが起きているのだろうか? 

初日は眠れず…工事関係者の暮らし

「今現在でもう1,000人を超えている。大変ですよ、人が多すぎて」。こう語るのは馬毛島の工事関係者の男性。匿名を条件に取材に応じた。撮影した映像を見てもらいながら島内の様子を聞いた。 

島の中央部に並ぶプレハブは1,000人ほどが生活する仮設宿舎だ。男性もこの宿舎で寝泊まりしながら工事にあたっているという。

男性の取材を基に宿舎内部のイメージ図を作成した。共用のトイレやシャワールームなどがあり、作業員1人につき1部屋が割り当てられている。

部屋の広さは、手を広げれば壁と壁につくくらいで、ベッドが1つ、ロッカーが1つ置いてある。20インチくらいのテレビが1台に、冷暖房も完備されているが、生活に必要な電気は発電機から賄われ、あまりの音に初日は一睡もできなかったという。

プレハブには宿舎のほかに食堂や医療センターも併設されており、ピーク時には4,000人の工事関係者の滞在が計画される中、島の東側にある馬毛島小中学校跡地の近くでも宿舎の建設が進められていると話す。

空母艦載機を使用したアメリカ軍の訓練

男性が次に説明したのは、島でひときわ高い灰色の建物。

仮説の生コンプラント
仮説の生コンプラント

「工事をするために作った生コンプラントで、仮設だが種子島にあるものより大きいのでは」と話す。ここでつくられたコンクリートは、島内様々な場所に運ばれ、工事に使用されている。

この島でアメリカ軍が行うのは、空母艦載機の離着陸訓練。そのために不可欠な滑走路は、通常使用するものと横風用が計画されている。

現在、滑走路予定地では地面を平らにする工事が24時間態勢で進められているということで、男性は「高いところを削って低いところを埋めている。ダンプカーが一晩中行ったり来たりしている」と語る。

岳之腰に抱く思い…工事は着々と

時の経過とともに変わってゆく馬毛島。かつては漁業者が住んでいたこともあった。元島民の山下六男さん(85)は、19歳の頃家族とともに馬毛島に移り住み、農業や漁業をしながら20年ほど暮らした。そんな山下さんには特別な思いを抱く場所がある。平坦な島にある小高い丘・岳之腰(たけのこし)だ。 

「月の夜なんかに岳之腰にギターも持って行き歌を歌ったりいろいろして騒いで帰ってくるものだった」と思い出を語る山下さん。子供たちが岳之腰に登った時の写真も残されていた。

「眺めは一番。一番高いところだから。馬毛島はそこに上がれば全部見える。できれば残してほしい。馬毛島のシンボルやもんな、岳之腰は」山下さんは思い出をかみしめた。 

しかし、この岳之腰も滑走路の予定地になっている。山下さんら元島民を中心に保存が叫ばれているが、防衛省は造成工事を進める方針だ。 

防衛省は、アメリカ軍の訓練を早ければ2025年にも開始し、島全体の工期はおおむね4年としている。しかし、先ほどの工事関係者は進捗(しんちょく)状況について「ここまでに何をするという計画があるが、だいぶ遅れていると思う」と話した。 

工期は遅れているようだが、男性は徹底された安全管理を感じていた。「絶対に無理はするな、体調が少しでも優れなかったら休め」と、口酸っぱく言われているという。そしてこう続けた。

馬毛島の工事関係者の男性:
働き方とか安全というのが徹底している。優遇されていると思いますね、守られているなという感覚はあります 

着工から1年。島の保存を願う声もある中、小さな無人島で始まった国防のプロジェクトは止まることなく着々と進んでいる。

(鹿児島テレビ)

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