中国で延べ90億人が移動する春節の旅行先として今、山形県内の観光地の人気が高まっている。こうした海外の観光客を呼び込む新たな取り組みを強化しているのが天童市だ。最新の動きを取材した。
あるアプリの投稿で山形人気急上昇?
春節の大型連休。蔵王にも海外から多くの観光客の姿があった。

1月29日、雪が降る中でも樹氷を見るためのロープウェーには多くの人が並び、賑わいを見せていた。香港から訪れた人は「蔵王はすごく人気。だからわざわざ来ました」と話す。
人気の理由は、山形が2025年の春節の旅行先で、人気急上昇部門1位に輝いたことだ。山形の人気が高まった背景には、あるアプリの存在があるという。

中国の若者を中心に人気のSNS「レッドノート」。蔵王に訪れたインフルエンサーなどが、樹氷の絶景写真をアップし、魅力を発信。その投稿を見た春節客が、県内に次々と訪れている。
中国から訪れた人は「中国で使っています。私もこれ(レッドノート)を見て来ました」と語り、台湾から訪れた人も「すごい!みんなの噂通り。1回来た方がいい」と笑顔で話していた。
「閑散期」が「繁忙期」に変化
蔵王や銀山温泉など県内の観光地に「追い風」が吹く中、インバウンド客の呼び込みをはかる動きが広がっている。

その一つが天童温泉だ。天童温泉では、この時期に訪れる客の実に約半数を中華圏からの観光客が占めている。

かつては、冬の間は宿泊客が少なく、ホテル業界にとってはとても厳しい時期だったというが、DMC天童温泉 旅行事業部・鈴木誠人部長は「インバウンド客がたくさん来てくれる時期になったので、閑散期から繁忙期に変わった」と語る。

ある旅館でこの日チェックアウトした宿泊客は、ほとんどが海外からの観光客。台湾からの家族連れは前日に銀山温泉を訪れたそうで、「雪がとてもきれい」と撮影した写真などを見せてくれた。
香港から来た別の家族は「雪が降っているのを見たいから。そしてスノーボードをする」と語った。この日は蔵王に行き、翌日は銀山温泉に行くそうで、なぜ、天童温泉に泊まったのかを聞いてみると、「蔵王・銀山温泉に運転して行くので便利」と教えてくれた。
天童温泉を“観光の宿泊拠点”に
県の中央部に位置する天童温泉は、蔵王や銀山温泉など、主な観光地まで車でいずれも約1時間という立地。これは、海外のホテルから観光地への移動時間と比べると「かなり短い」という。

天童温泉は今、この立地を生かして「県内各地へ向かう際の宿泊拠点としての存在感」を高めようとしている。

DMC天童温泉 旅行事業部・鈴木部長は「みんなが行きたいと思う観光スポットがたくさんある。ちょうどその中間に天童温泉があるので、天童温泉をハブにして、いろんなところに観光を楽しんでもらえるようにやっている」と話す。

「拠点」となるために天童温泉が力を入れているのが、銀山温泉へのバスツアーだ。銀山温泉自体は、宿泊できる人数が限られているため「天童に泊まって銀山温泉へ出かけてもらう」ツアーが人気だといい、鈴木部長は「2月いっぱいはこんな形で予約が埋まっている」と状況を語った。

天童温泉から毎日出発する銀山温泉バスツアーは、5年前に始めた当初は参加者が年間30人だったが、今では年間2000人。約70倍に増えた。
鈴木部長は「個人でバラバラ行くのではなく、天童温泉に泊まっているお客をまとめて連れて行って、スムーズに安全に案内して、地域間での課題解決も一緒になってやっていきたい」と思いを語った。
観光地同士の連携で“三方よし”を
世界から注目される「冬のやまがた」。オーバーツーリズムの課題もある中、海外の旅行客をどのように受け入れていくのが良いのか。

「これからは観光地同士の連携が欠かせない」という鈴木部長は、「お客も銀山温泉を楽しんでもらえる。銀山温泉はオーバーツーリズム対策になる。我々は天童温泉に泊まってもらえるという“三方よし”の形をしっかり作っていきながら、いろんな観光地で地域の人々と一緒になって、観光地域づくり・受け入れに取り組んでいきたい」と語った。
天童市が始めた取り組みは、いわば観光地同士の「役割分担」。蔵王など「目玉となる観光地」と「宿泊」を受け持つ天童温泉が上手に連携することで、互いにメリットが出る。
天童温泉に限らず、ほかの観光地でも参考になる部分が多そうだ。
(さくらんぼテレビ)