東京・有明で開催されたデモ集会で、「サクラ」が動員されていた問題。FNNは騒動後、自らサクラの募集に関与したと語る複数の関係者らに独自に接触し、今回の騒動の背景について取材した。なぜ報酬が支払われたのか、誰が支払ったのか。その一端が明らかになった。
主催者は関与否定、一体だれが
騒動は、9月28日土曜日、東京・有明の東京臨海広域防災公園で開かれた新型コロナウイルスのワクチンに反対するデモ集会で起きた。
この記事の画像(23枚)会場にはステージが設けられ、ワクチン反対を訴えるTシャツを着た参加者らが熱心に壇上を見つめていた。その一方で、園内の大半を埋め尽くしたのは、ステージを見向きもしない数千人の若者たちだった。
集会の数日前から、SNSなどでは「デモ参加者に報酬1万円」「手軽なバイト」などと、いわゆる「サクラ」を募集する投稿が拡散されていた。
FNNは参加者らへの取材で、若者の多くがそうした投稿を見て現地を訪れたことを把握。報酬を受け取れなかったという10代の男女や、逆に受け取れたと語る20代男性の証言などとともに報じた。
このデモ集会を主催した団体「WHOから命をまもる国民運動」は当日の取材に対し、サクラ募集への関与を否定した。その上で騒動後、公式ホームページで共同代表名義の声明文を公表した。その中に、こうした記載があった。
「国民運動の趣旨と方針に反する行為が、全50梯団のうちの1梯団の責任者の友人の一人によって行われた」「当国民運動は、このような参加者の友人による行為を完全に拒否するものであり、強く抗議します」
同ホームページには、梯団(グループ)の責任者とされる男性による謝罪文も掲載してあった。記者はこの男性に接触し、今回の騒動について尋ねることにした。
SNSで「サクラ募集に関与した」と投稿した男性は…
男性は、ホストクラブを全国展開する会社の幹部で、売掛金の廃止などホストクラブ健全化を目的とした協議会でも理事を務めている。
SNSや同社を通じての取材依頼に回答はなかったものの、取材の過程で関係者から電話番号を入手した。電話に出た男性に今回の騒動の背景について尋ねると、「今回の件は、正直このまま風化させたい思いがある」と取材に難色を示しつつも、経緯を語り始めた。
男性は約3年前から新型コロナウイルスのワクチンに反対する活動をしてきたといい、今回のデモ集会では「10月に国内での接種が解禁された『レプリコンワクチン』の危険性を広く訴えたかった」と主張した。参加者を増やそうと、約2~3ヶ月前から自社の従業員や知人に、デモ集会への参加を呼びかけた。その中の一人が、今回サクラへの報酬を負担したという知人だった。「夜の街」に関係する会社の経営者で、男性の考えに共感を示した上で、当日の動員を約束してくれたという。
しかしイベント当日、会場には男性が想像していた以上の人数が訪れた。不審に思い、知人に電話すると、「傘下企業の社長らに資金を渡して動員をかけた」と明かされた。集会後に再び電話をすると、その額が約190万円だとも告げられた。一方で、どのように参加者らに報酬が配布されたかは、「知人も把握してなかった」という。
一人あたりの報酬が1万円として、動員されたサクラは約190人。しかし、記者が現場で目撃したのは、ゆうに数千人にのぼる若者たちだった。数字が合わないことを尋ねると、男性は「なぜだか本当に分からない」と弁解した。デモ集会の数日前にはサクラ募集のSNS投稿の存在を知っていたというが、「まさか自分が関係しているとは思わなかった。今回はデモに反対する勢力による妨害工作だと信じている」と主張した。
報酬を受け取ったサクラは本当に約190人にとどまるのかーー。
その後の取材で、この疑問に答える証言を得ることができた。
浮上した「トクリュウ」、メンバーが明かすサクラ募集の実態
「サクラは最低でも800人はいたはず」
そう記者に語ったのは、都内の風俗店などに女性を斡旋する、20代の男性スカウトだった。この男性スカウトが所属するのは、国内最大規模のスカウトグループ。2020年に新宿歌舞伎町で指定暴力団の4次団体と対立した「スカウト狩り」などで注目を集めた。警視庁は「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」にあたるとみており、昨年11月にも幹部らを組織犯罪処罰法違反で逮捕している。関係者によると、現在は別名称で活動しているという。
男性スカウトによると、デモ集会の約5日前、グループ専用のアプリ内でサクラ募集の案内が投稿された。内容は、デモ参加者1人当たりに報酬2万円を支払うというもので、手を挙げたメンバーは計約800人にのぼったという。「自ら行くだけでも2万円もらえる。サクラの人数にも制限はなく、多ければ多いほど良いという案内だった」
男性スカウトがX(旧Twitter)でサクラを募集すると、10~30代の約20人からダイレクトメッセージが届いた。男性スカウトは「一人1万円を渡す」と報酬を約束した上で、それぞれ個別にやり取りし、集会当日の午後1時に有明駅に来るよう伝えた。
当日はグループから指示された通り、集まったサクラの顔写真を撮影した。公園内で約2時間過ごさせた後、再度集合。今度は全体写真を撮影した上で、自ら事前に用意していた現金から一人1万円ずつ配布した。グループからは後日、撮影した写真と照会した上で約20人分の報酬約40万円を手渡しで受け取った。手渡しの理由は「銀行口座などの履歴を残さないため」。スカウトの中には、想像を超える人数が集まった結果、報酬の立て替えができずにサクラとトラブルになったり、サクラに報酬を支払わずに連絡を絶ったりしたケースもあったという。
男性スカウトは今回のようなサクラ募集の案内を、グループ内でも初めて見たという。
「誰がうちのグループに動員を依頼したかは教えてもらっていない。でも、少なくとも数千万円を動かせる財力には不気味さを感じる」
主催者は、サクラ募集にトクリュウが関与していたことについて、「我々の運動は、政府のワクチン政策などに抗議するため、全国から自発的に集まった普通の国民の集会。サクラの動員は無意味で、犯罪組織とも一切関係ない」と主張。「メディアで報じる事で、この運動を潰す目的で仕掛けたのではないかと考える。メディアは、運動の全体像を報じるべきだ」(抜粋)などとコメントした。
記者に届いた「首を突っ込まない方がいい」
「サクラ募集」に関与していたトクリュウの存在。記者はデモ当日、指定暴力団の2次団体の名前を挙げ、組関係者から「一人でも多く動員してほしい」と依頼されたという参加者の証言を得ている。
また、サクラ募集に関わったという別のスカウト関係者からはSNSを通じて、「闇が深いのであまり首を突っ込まない方がいい」というメッセージも届いた。
サクラ募集の一端が明らかになった一方、トクリュウに資金を提供した人物や組織、そしてその理由など、依然と多くの疑問は残る。
「簡単に報酬1万円」。そんな投稿の背景に犯罪グループが潜んでいた。今回のデモでの参加者の連絡先や写真などが、今後悪用される可能性もある。そうした罠が潜む誘惑的な投稿に流されないため、ファクトチェックという防波堤が求められている。
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