その日の昼過ぎ、新交通「ゆりかもめ」の有明駅周辺は、異様な空気に包まれていた。10~20代の若い男女数百人が駅周辺にたむろって、くわえタバコをしたり缶ビールをあおったりしている。近隣には複数のコンサート施設があるが、そうした客に特有のお揃いのグッズなどを身にまとっている様子はない。

記者は、集まっている理由を彼らに尋ねたが、口ごもって答えない。しばらく様子を見ていると、20代らしき男性にメガホンで「行きまーす」と呼びかけられ、続々と近くの公園敷地内に入って行った。その時、彼らが口々に「デモ」「1万円」などと話しているのが聞こえた。記者は彼らの後をついて行くことにした。

「本当にもらえないの?」スタッフに詰め寄る若者たち

9月28日土曜日、東京・有明の東京臨海広域防災公園で大規模なデモ集会が開かれた。有事には災害拠点としても使われる広い芝生にステージが設けられ、登壇者が演奏したり自説を振るったりしていた。

東京臨海広域防災公園で行われた“反ワクチン”集会
東京臨海広域防災公園で行われた“反ワクチン”集会
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集会の主なテーマはコロナワクチン反対。公式のチラシには「WHOと政府は言論統制するな」「政府と国会は日本人の命を守れ」などと記され、参加者で近隣をデモ行進するなどと案内されていた。

ステージに近い芝生には、ワクチン反対を訴えるTシャツを着た人ら数百人が座り、壇上を熱心に見つめていた。一方で、ステージから50mほど離れた芝生では、服装がバラバラな若い男女数千人が、スマホを操作したり横になったりしつつ、三々五々に話をしているのが見て取れた。ステージを気にする者はほとんどいない。

このイベントに毎回参加しているという江戸川区の60代男性はそうした様子に、「最初は同志が増えた、若者にも関心が広まっていると思ってうれしかったけど、話しかけても要領を得ない。こんな事は初めてでちょっと不気味さを感じる」と、けげんな表情を浮かべた。

デモ主催側のスタッフは「参加者への報酬はない」と訴えた
デモ主催側のスタッフは「参加者への報酬はない」と訴えた

そんな中、会場の一角で、10代に見える男性数人が、メガホンを持ったイベントのスタッフを取り囲み、「本当にもらえないの?」と食ってかかっているのが見えた。「デモ参加者への報酬はありません」「デマ情報にだまされないで」。スタッフはメガホンでこう訴えていた。

取り囲んでいた男性の一人に声を掛けた。友人らと東京・立川市から来た高校生だという。取材の意図を告げ、訪れた経緯を尋ねようとしたところ、そばにいた男性の友人から「部外者に話しちゃいけないと言われているので」と制され、取材することはできなかった。

「バイト代1万円」SNSで拡散

その後も取材は難航したが、数人から話を聞くことができた。

千葉県から来た男子高校生は、友人がインスタグラムで投稿しているのを見て、今回のイベントを知ったという。投稿には、デモの日時と「バイト代1万円」「1時間半の活動で割の良いバイトだと思って下さい」「若者の力が必要です」などと記されていた。友人に連絡すると、LINEのグループチャットに招待された。報酬の支払い方法は当日に手渡しと聞いていたが、結局受け取ることはできなかったという。

同様の投稿がSNSなどで拡散されたという
同様の投稿がSNSなどで拡散されたという

同様の投稿が、かつての「チェーンメール」のように友人間で広まっており、XなどのSNSでも拡散されていた。「デマにだまされてしまって、交通費分だけ損をしてしまって悔しい」と語った。

一方、報酬を受け取ったと明かす参加者もいた。

新宿・歌舞伎町で接客業をしている20代男性はデモの約3日前、風俗店などのスカウトをしている知人から話を持ちかけられたという。「誰かを連れてきたら2万円が出て、そのうち1万円をもらえる」と説明された。

デモ会場には多くの若者の姿があった
デモ会場には多くの若者の姿があった

当日、男性は有明駅に来るよう指示され、同じくスカウトから招待されたと思しき約30人と集合写真を撮った。公園に案内され、芝生でスマホをいじるなどして過ごした。約2時間後に呼び付けられ、写真を再び撮影された。その後、集合時に撮影した写真と照合された上で、1万円札を手渡しで受け取ったという。誰が動員をかけたのかは聞いておらず、デモの趣旨については「興味がない」と語った。

他にも記者は、会場にいた数人から、同様に報酬を受け取ったという証言を得た。中には都内の暴力団の名前を挙げ、組関係者から「『できる限り動員をかけてくれ』と依頼された」と話す男性もいた。

「全くの事実無根」主催者側は否定

今回の大規模な「サクラ」の募集を、主催者側はどのように捉えているのか。

主催者側によると、デモの2~3日前からSNS上ではデモ参加に報酬が出るという投稿が拡散され始めた。ホームページ上でそうした情報を否定したが、当日、想定以上の参加者が訪れ、対応に追われたという。「全くの事実無根。我々の支援者が勝手に集めた可能性はあるが、イベント運営への差し障りもあって困惑している。場合によっては警察への被害届も検討している」と話した。

駅周辺には大量の吸い殻や空き缶などのゴミが散乱
駅周辺には大量の吸い殻や空き缶などのゴミが散乱

主催者側が関与を否定したサクラ。一体、誰が動員をかけ、配布された1万円の原資は何なのか。この日、有明駅周辺では終電間際にも「報酬を受け取れていない」などと語る参加者らが路上に座り込んでいた。周辺には、大量の吸い殻や空き缶などのゴミが散らばったままだった。
(フジテレビ社会部 松岡 紳顕)

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松岡 紳顕
松岡 紳顕

フジテレビ報道局社会部記者
1991年生まれ、福岡県とカナダ育ち。慶應義塾大学法学部を卒業後、2015年に全国紙に入社。知能犯罪や反社会的勢力、宗教2世問題、農水省、宮内庁などを担当。2023年秋よりフジテレビ社会部で司法担当記者として、汚職関係を取材しています。趣味は冬山登山です。
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