去年1月、東京都狛江市で高齢の女性が死亡した強盗事件。強盗致死などの罪に問われた石川県白山市出身の当時19歳の男に対し、懲役23年の判決が言い渡された。一連の裁判員裁判で事件の詳細が語られた。そこでは通信アプリ「テレグラム」を使い、詳細な犯行指示があったことが明らかにされた。
広域強盗事件…通信アプリで具体的詳細な指示
この記事の画像(10枚)2023年1月、東京都狛江市に住む90歳の女性が死亡した状態で見つかった事件。この事件で、強盗致死などの罪に問われているのが、石川県白山市出身の元大学生の男(犯行当時19歳)だ。
裁判で明らかにされた事件の詳細
東京地裁立川支部で行われた裁判員裁判。ここで事件の詳細が明らかになった。
判決によると、元大学生は、金沢市の男らと共謀。2023年1月19日午前11時30分頃、元大学生ら実行犯4人は、東京都狛江市の女性の家に宅配業者を装い、玄関ドアから侵入。そして午後1時10分すぎまでの間に、当時90歳の女性に対し、両手を結束バンドで緊縛。時価59万円相当の腕時計などを奪い逃走した。バールなどで暴行を加えられた女性は多発肋骨骨折などによる外傷性ショックで死亡した状態で見つかった。
元大学生が問われた罪はこれだけではない。翌日の20日午前10時50分過ぎ、元大学生らは埼玉県草加市にあるコンビニ駐車場で、前日の犯行に使用したバールや、段ボール箱などを積載した乗用車に乗り込み、東京都足立区へ向かった。そして午前11時20分ごろから35分頃までの間に、足立区の住宅のインターホンを押すなど犯行の機会をうかがう。午後1時15分頃から50分頃までの間に、バールを使い1階にある食堂南側の掃き出し窓の鍵を外して侵入。しかし金品を発見することが出来なかった。元大学生は、1月31日午後3時40分頃、金沢市の石川県運転免許センターで、免許証の住所を変更しようとした際に、偽造した運転免許証を提出し、それがばれて逮捕された。
全国を震撼させた一連の広域強盗事件。ルフィなどの指示役が通信アプリなどを使って、『闇バイト』として実行犯を募集。全国で強盗事件を起こしていたものだ。今回の事件でも、その通信アプリ「テレグラム」を使った詳細な指示があったことが、裁判で明らかになった。
通信アプリでやりとりされる詳細な指示
2022年12月。テレグラムでは強盗事件の実行犯が募られていた。募っていたのはKim(キム)やsugar(シュガー)、三橋と名乗る者たちだ。当時、”運び”という種類の闇バイトを探していた元大学生は、一緒に闇バイトをしていた男の紹介でシュガーと知り合い、その後シュガーとテレグラムで個別に連絡を取り合うようになったと言う。
2023年1月12日。シュガーからテレグラムにメッセージが送られてきた。
明日案件あるんですけど。人数は4人揃えていこうと思うんですが、明日はどうですか?昼間予定で詳しい情報は22時くらいにそろう予定です。経験者もいます。どうしますか?
さらに…
2000万案件でした。旦那、奥さん、息子2人、地下にお金を隠している。昼間の仕事行ってる時間い突入予定。仕事行っている時間帯に行くので奥さんだけのとき狙っていきます。返答なるべく早く欲しいです。準備あるので
東京都狛江市で犯行への参加を持ちかけられたのだ。
その後、テレグラムにグループが作られた。その名も「水曜日、ババア案件」このグループには、元大学生がシュガーと知り合うきっかけとなった男、さらに金沢の男に、元大学生に加え、キム、シュガー、三橋などが参加していたと言う。
このグループトークでキムやシュガーは犯行を詳しく指示していく。
水曜日、都内叩き案件。午後2時突入予定。金は地下室にあります。金庫かどうかは不明。3000から5000はある。服は上下、靴、帽子全部捨てられるような物用意してください。相手は殺しはしませんが、万が一最悪の事考えて全部捨てます。手袋、その他の道具はこちらで用意します。
さらに…
運送屋のユニホーム用意します。それを着て段ボールを持ってピンポンしてドアを開けさせるだけの役です。ドアがチェーンもなく完全に開いたのを確認した瞬間、残りの車待機メンバーも即突入する形になります。ピンポンして宅配便です、印鑑かサインお願いします。で玄関まで呼び、ドアを完全に開けさせます。チェーンの状態でこじ開けるのはやめてください。ドアが完全に開いたらババアをいきなりボコして大丈夫です。すぐ後ろから残りのメンバーも来ますので、ババアを引きずって中まで連れて行き、地下に下ろします。縛って金庫の場所と番号聞いて金奪うだけです。大体ババアは大声出すので、顔面、喉、鼻を狙ってください。声出せなくするだけです。
犯行予定日は1月18日だった。なぜ犯行日が1日ずれたのか。それも裁判で明らかになっている。
18日、金沢の男が、コインパーキングに止めてあったレンタカーに乗り込み、元大学生らと合流。別の駐車場においてあるレンターカーに、宅配業者を装うための道具があるとの指示でそこに向かったが、車に道具がなかった。そのため、コンビニで段ボールや伝票を購入。レンタカーを乗り換え狛江に向かったが、家にあるはずの車がなく、人がいない可能性があることからその日の犯行は中止したと言う。
1日遅れの犯行も想定外の事態が…
そして翌19日。元大学生らはバールや結束バンドなどを用意した上で再び合流。現場に向かった。
午前11時30分ごろ。宅配業者を装った元大学生がインターホンを押す。しかし、ここでも想定外の事態が起きてしまう。
ドアを開けた被害者に事前に用意した伝票を見せると、被害者は「これは私あての荷物ではないから受け取れない」と話した。屋内に戻ろうする被害者。しかし、元大学生と一緒にいた別の男が被害者の体を抱きかかえ、家に侵入。元大学生らは女性の両手を結束バンドで緊縛。別の男らが金庫の場所を聞き出すために腹を蹴ったり、顔を殴ったりした。
そして女性を地下室に連行し、金沢の男が「家を燃やすぞ」などと女性を脅し、別の男が、女性の背中をバールで殴るなどの暴行を加えた。その後、元大学生は女性の家を物色したものの腕時計と指輪しか見つけられず、金庫や現金を見つけられないまま、キムの指示で午後1時10分過ぎ、女性の家から立ち去ったと言う。
女性は一連の暴行で死亡。その日のうちに、元大学生らは女性が死亡したことを認識していたと見られる。これだけで犯行は終わらなかった。
テレグラムに新たな指示が入る。
「木曜日、はしごできるかな?」
あらたなグループが立ち上げられ、別の押し込み強盗を持ちかけられたのだ。元大学生は承諾し、翌日、足立区でも別の犯行に及んだ。
指示役から海外逃亡を持ちかけられるもパスポートがない
事件後、元大学生は、キムから海外逃亡を持ちかけれる。しかし元大学生には、海外逃亡のためのパスポートを持っていなかった。そこで元大学生は、キムらを通じて偽造した運転免許証を入手。パスポートセンターへ向かったが、そこで職員から、免許証の住所を住民基本台帳ネットワーク上の住所と一致させるよう求められた。このため金沢に戻り住所変更しようとした所、偽造免許証がばれ逮捕された。当時19歳だったが、特定少年として起訴された。
東京地方裁判所立川支部で行われた裁判員裁判。検察側は強盗致死罪が成立するなどと主張し、懲役25年を求刑。一方、弁護側は元大学生が女性に直接、暴行を加えていないなどとして強盗罪だけが適用されると懲役13年を求めていた。
6日に言い渡された判決。杉山正明裁判長は、共犯者が被害者をバールで殴るなどの暴行を加える可能性があることを認識しながら犯行に加わったとして、強盗致死罪が成立すると指摘。その上で被害者の両手を結束バンドで縛るなど犯行に不可欠な行為を行ったことから、事件において元大学生が果たした役割は重要だったとして、懲役23年の判決を言い渡した。
本来なら強盗致死罪は無期懲役か死刑が言い渡されるところ、特定少年という理由からか検察側の求刑は懲役25年。しかし亡くなった女性の遺族の弁護人は、被害者参加制度を用い、強盗致死罪の法定刑を適用するよう主張していた。裕福な生い立ちから一転、闇の世界に引き込まれた元大学生。しっかりと刑に服し更正することを望むしかない。
(石川テレビ)