寝ている時に、突然耳元で聞こえる「ぷ~~~ん」という耳障りな音。パチンと叩いて追い払おうとしても、なかなかうまくいかない。刺されてしまうとかゆみでさらに眠りが妨げられる…。
蚊に多くの人が翻弄(ほんろう)された経験があるだろう。
夏の風物詩というイメージが強いが、“蚊博士”こと害虫防除技術研究所の白井良和さんによれば、10月中旬まで多く活動する。なかでも夜に耳元でうるさい蚊は「アカイエカ」という種類で、9月から活動が活発になるのだ。生態と対策を聞いた。
アカイエカは“夜専門”
「日本には100種類くらいの蚊がいますが、血を吸う蚊は30種類くらい。中でもいちばん人の血を吸うのは、昼はヒトスジシマカ、夜はアカイエカでしょう」(以下、白井さん)
この記事の画像(6枚)ヒトスジシマカはヤブ蚊とも呼ばれるもっとも一般的な蚊。黒と白のまだらの足が特徴で、朝と夕方に吸血する傾向がある。一方のアカイエカは褐色の体をした蚊で、夜12時頃から朝方まで吸血する傾向がある。
「アカイエカは“夜専門”の蚊なので、ヒトスジシマカと違って姿をしっかり見たことがない人も多いと思います」
活動が活発になる温度は、ヒトスジシマカは25~30度くらいで、シーズンは5~10月中旬頃。アカイエカは22~27度くらいで、ヒトスジシマカに比べて暑さに弱い。そのため猛暑の時期にはあまりおらず、6月と9〜10月くらいに活発になる。
隙間から入ってくる!
「アカイエカは、隙間から家に入るのが得意なんです」と白井さん。
白井さんによれば、アカイエカは、夜、仕事から帰ってきてドアを開けた瞬間や、夜に洗濯物を取り込む時に、人の息に含まれる二酸化炭素を感知してドアやガラス戸の隙間からスッと侵入する。
そしてそのまま家に潜み、寝室に忍び込み、住人が寝静まると体温などを感知して、吸血するのだ。
「耳元であの音がするとせっかく眠りについたのに起きてしまうし、電気をつけて探しているうちに睡眠時間が短くなってしまうのが困った点です」
家に忍び込んだアカイエカは、人の血を吸ったあとなるべく早く外に出て産卵しようとする。その後、1~6カ月ほど生きるとされる。
なお、アカイエカに限らず蚊が出やすい家の第一条件は、ガーデニングをしているなど、植物をたくさん育てていることだ。
蚊は、側溝の端に設けてある雨水をためる「雨水桝(うすいます)」で産卵し、羽化して成虫になり、植物の陰に潜んで過ごす。そこに犬や猫を外飼いしている場合、さらに蚊が発生しやすくなる。蚊は犬や猫の血を吸って、植木鉢の受け皿に溜まった水などに産卵することができてしまうからだ。
殺虫剤使用の注意点
「第一の対策は、アカイエカが侵入できる隙間をなくすこと。また、明るいうちに洗濯物を取り込むのも有効です」
そのうえで「一番簡単な対策は、寝る1時間ほど前に寝室にエアゾール式殺虫剤(スプレー)を噴霧しておくことです」と、白井さん。スプレーで目や喉が痛くなる人は、蚊が入ってこないようにさっと窓を開けて換気する。そのほか、蚊取り線香、蚊取りマット、液体蚊取りを使ってもよい。
「ただし、殺虫成分の入っていない精油を使った商品は効果が薄い場合があるので注意してください」
ペットを飼っている人や小さい子供がいる家は殺虫剤の影響が気になるかもしれない。白井さんによれば、人間をはじめ犬猫などの哺乳類、鳥類に対しては問題ない。しかし、金魚や熱帯魚などの魚類、昆虫などの節足動物、甲殻類はピレスロイド系の殺虫剤で死んでしまう場合があるので、注意が必要とのことだ。
9月から活動が活発になるアカイエカ。生態を知ったうえで賢く対策をしていきたい。
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白井 良和(しらい・よしかず)
害虫防除技術研究所代表、有限会社モストップ取締役、医学博士。30年以上にわたり蚊を研究。1994年京都大学農学部農林生物学科卒業。1996年京都大学大学院農学研究科修了。殺虫剤メーカー研究員を経て、2001年富山医科薬科大学大学院医学系研究科博士後期課程修了。害虫駆除会社にて駆除業務を行った後、2003年、蚊駆除業務を柱に有限会社モストップを創業。現在では、蚊忌避剤や蚊捕獲器の効果確認試験を主な業務とし、書籍の出版、YouTube動画投稿等も行っている。