アメリカ国防総省でUFO情報を一元管理・分析するAARO(全領域異常対策室)は3月8日、いわゆるUFO(未確認飛行物体)などに関連するアメリカ政府の「歴史的記録に関する報告書」を公表した。報告書では1945年以降の、アメリカ政府の公式な調査活動や、機密文書を含む公文書、約30件の聞き取りを基に、UFOなどの目撃情報について「地球外技術の存在を示す証拠はない」とし、目撃情報の「大半は誤認」と結論付けられた。

ただ、発表直後から報告書の中身について、出典資料のリンク切れや、数字の間違いなどが指摘され、調査のあり方に疑問の声が噴出している。さらに、政府にUFOに関する機密情報の公開を求めている議会からは、報告書が「結論ありきだった」として、「隠ぺい工作をしている人達が『隠ぺい工作はない』と言っている」と批判の声も挙がる。報告書の中身と、その後の展開を追った。
国防総省「全領域異常対策室」の“UFO報告書”
AAROが発表した報告書は全63ページで、「1945年以降の米国政府の公式な調査活動をすべて検討し、機密および未分類の公文書を調査し、約30件の聞き取り調査を行った」としている。

さらに、「目的は特定の信念を証明したり反証したりすることではない」、「特定の先入観にとらわれた結論や仮説を持たない」としつつ、UFOに関する政府への疑念の声を「物語」、「テレビ番組、書籍、映画、SNSに影響を受けている」と手厳しい書き方で暗に批判もしている。
この事は、「国防総省に都合が良い、結論ありきの報告書」という批判が挙がる要因にもなっている。
報告書では重要な3つのポイントが指摘されている。
①「UFOの目撃情報が地球外生命体の技術であることを確認した証拠はない」
②「ほとんどの目撃情報は普通の物体や現象であり、誤認の結果であると結論付けている」
③「米国政府と民間企業が地球外テクノロジーをリバース・エンジニアリングしてきたという主張について証拠を発見できなかった」

このうち①と②はUFOがいわゆる宇宙人による技術で作られたという説を否定したものだ。
③については、2023年7月に連邦議会下院で開催されたUFOに関する公聴会で、参考人として出席した元軍人が「墜落したUFOを回収した」と証言し、話題を集めたことに関連する。リバース・エンジニアリングとは、長年にわたりアメリカ政府が墜落したUFOを極秘裏に回収し、分析などしていると指摘されたことだが、報告書ではこの説を重ねて否定した。
米政府によるUFOリバース・エンジニアリングは否定
米国政府によるUFOのリバース・エンジニアリングについて、報告書では「存在しない」あるいは、「高度に機密性の高い国家安全保障プログラム」などとして、原因が「ステルス技術やドローン、ロケット、航空システムの誤認」などによる可能性を指摘している。

また、UFOに関する書籍や映画、ドラマなどの文化的な要因によって「誤った情報の急速な拡散」に繋がったともする。また、「米国政府が地球外テクノロジーをリバース・エンジニアリングしており、それを議会から隠しているという不正確な主張は、大部分が、証拠がないにもかかわらず、そうであると信じている特定のグループからの報告の結果である」として、一部グループによる誤った情報の拡散が原因の1つとの見方も示した。
米政府「リバース・エンジニアリング」を検討はしていた
報告書ではUFOには否定的な見解が多い。
一方で、興味深いまとめもある。1つは1945年以降のUFOに関して、米国政府の公式な取り組みが約20件もあったことが明らかになっているのだ。「プロジェクト・ソーサー」や「プロジェクト・サイン」といった、米政府によるUFOを調査する組織の成立、推移が記されている。1952年には日中の首都ワシントン上空に、複数のUFOとされる物体が出現し大騒動となったことに端を発して、「CIA特別研究グループ」が立ち上げられた点や、ドラマ化もされている米空軍の「プロジェクト・ブルーブック」がUFO調査に乗り出した経緯にも触れている。

特に「プロジェクト・ブルーブック」については、国立公文書館の記録を精査し、「安全保障上の脅威はない」「目撃情報が地球外生命体である証拠はない」としつつも、1万2618件の目撃情報のうち、701件が未解決だったと結論付けている点に触れている。さらにハリー・リード元上院議員が主導し、2200万ドル(日本円で約32億円)が投じられた「AATIP(先端航空宇宙脅威特定計画)」についての記述では、クリーチャーの調査や超能力者を雇うことが計画されていたとしている。さらに「コナ・ブルー」という計画の中では、本気で一時期、宇宙人の宇宙船を回収し、リバース・エンジニアリングするプログラムを検討していたことも明らかにしている。

AAROはこのほかにも30人に行ったインタビューの結果なども報告している。元米軍兵士が、同僚の元軍人が「地球外の宇宙船に触れた」との証言の検証結果として、ステルス戦闘機に触れた経験の誤認との結論を出しているなど、多くの軍人などによるUFO目撃を、軍の施設で当時行われていたテストの結果の可能性に触れている。ただ、「少なくとも1人のインタビュー対象者は、捕獲されたUAP(UFO)を見たことがある」などとも記載されており、最終的な不透明な部分については、この報告書の次に出される新たな報告書で追記するとしている。
間違い散見、リンク切れも・・・報告書に批判が噴出
過去のUFO調査の事例を再評価したことに一定の評価もされている一方で、報告書の発表からすぐ、「明らかなチェリーピッキング」と国防総省が自らの論証に有利な証拠のみを選んでいると批判も挙がる。さらに議会からは「隠ぺい工作している人達が『隠ぺい工作はない』と言っている」と、そもそもの国防総省の調査の信頼性を一蹴した。

さらに、報告書のお粗末なミスが、信頼性をさらに低下させた。例えば、前述したAATIPを主導したリード元上院議員をニューメキシコ州選出としているが、実際はネバダ州の選出だ。現在は修正されたが、当地で国際空港の名前にも使用されている人物なだけに痛恨のミスだ。さらに日付間違いなども散見。UAP(UFO)科学連合のロバート・パウエル理事は、SNS上に引用文献のリンク切れが複数箇所あることなども指摘している。実際に私もリンク切れを確認した。

また、「空飛ぶ円盤」という呼称を世に広めた、1947年6月24日のワシントン州で起こったUFO遭遇事件「ケネス・アーノルド事件」の記載にも問題があった。パウエル氏はこちらの日付も報告書では6月23日と1日間違えているとして「これは些細なことに思えるかもしれないが、UFO/UAPの歴史において最も重要な日付だ」と批判している。そのほかにも、UFOの目撃情報が最も少なかった年を「急増している」と記載している点や、第二次世界大戦中に急増したUFO目撃情報を無視し、戦後の1945年以降という調査の開始期間を区切った点。2004年に空母ニミッツ打撃群が、カリフォルニア州サンディエゴ付近で不審な飛行物体を発見し追跡したことの検証がないなどのことを、国防総省の意図的な調査と批判している。パウエル氏は「文書を書いた人がワインを何杯か飲み過ぎただけであることを願う」とした上で、「陰謀論者に反撃するために必要なことは何でもやろうとしている論文であることがはっきりしてきた」と痛烈な皮肉を投稿している。

興味深い点が多くありつつも、細かいミスの連続や調査のあり方によって、UFO研究者を始め、情報公開を求める議会にまでもさらに火を付けてしまった今回の報告書。さらに第2弾も今後予定されている。「ほとんど」などの表現は、依然として判別不明な事象があることの裏付けでもある。どのような内容が公表されるのか引き続き注目していく。
(FNNワシントン支局 中西孝介)