プロ野球に偉大な足跡を残した選手たちの功績・伝説を徳光和夫が引き出す『プロ野球レジェン堂』。記憶に残る名勝負や知られざる裏話、ライバル関係など、「最強のスポーツコンテンツ」だった“あの頃のプロ野球”のレジェンドたちに迫る!

俊足・巧打・堅守で8シーズンで打率3割超え。横浜大洋「スーパーカートリオ」の1番バッターとして活躍、アテネ五輪で守備・走塁コーチを務め、現在は解説者として活躍する“レジェンド”高木豊氏に徳光和夫が切り込んだ。

高木・加藤・屋鋪「スーパーカートリオ」伝説

徳光:
1984年、これはもう忘れもしませんけど、盗塁王。
あのころは積極的に走ってましたけど、ご自身の考えで走ってたんですか?

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高木:
走らなかったら怒られましたね。

徳光:
走らないと。

高木:
走らなかったら怒られたという。場面関係なく行けと。行って覚えろと。

徳光:
「アウトになってもいいから」ってことですか。

高木:
はい。

徳光:
関根監督から。

高木:
とにかく行けって。

徳光:
福本さんとはどうですか?福本さんの盗塁、参考にしたことなんかあるんですか?

高木:
ありますよ。オールスターで聞きに行って、「福さんちょっと盗塁のコツ教えてください」って言ったら、「あんなもん、おまえ、目見てたら分かるやろ」みたいな。

徳光:
目?

高木:
だからそういうリアクションなんですよ。目?みたいな。
そういうリアクションだったんですよ、僕も。
目ってどういうことですか。「いや(ピッチャーの)目ん玉動くだろう、見て」。
いや俺、背中越しから見てんだけどみたいな。
いや、だけどこうやって見たときに目が動くだろうって。
んで、ホームいくときは必ずキャッチャー見るから、その時いくんだよ、みたいな。
見えなかったです、目ん玉なんか。

徳光:
すごいな福本さん。

高木:
福本さんがよっぽど目がいいんだなみたいな。

徳光:
で、監督は近藤(貞雄)さんになります。ここからはどうなんですかね。

高木:
ここから「スーパーカートリオ」っていうね。

徳光:
まさにそうなんですね。

高木:
そうですね。それも(最初は)長嶋さんが「スポーツカートリオ」って言ったんですよ。
で、スポーツカートリオっていうのはちょっと古臭いんじゃないかっていうんで、近藤さんが「スーパーカートリオ」に直したんです。ものすごく失礼なことしてるんですよ、長嶋さんに。

近藤貞雄は長嶋茂雄の11歳年上で巨人でも「先輩」にあたる。

徳光:
でもスーパーカートリオの方が逆にしっくりくる感じがしますね。

高木:
で、3人ひと組にされたんです。

徳光:
されちゃったって感じなんですか?

高木:
されちゃったっていう感じですね。
3人トリオよりも、1人で立ってる方がかっこよくないですか。
なんか3人トリオかよ、みたいな。そういうのは思ってました。

徳光:
トリオじゃなくてソロで行きたいと。

高木:
ソロで行きたいですよね。

徳光:
でもその時は、1番豊さんが42盗塁。2番の加藤博一さんが48盗塁、3番の屋鋪要さんが58盗塁。3人で148盗塁と。
これは相手ピッチャーというか、相手バッテリー嫌ですよね。

高木:
もうね、走れなかったら近藤さんに呼ばれて。もう忘れもしないですけど、「お前たち、きょう走れなかったら 全員あしたから外す」と。「お前らの武器は何なんだ」と。「出ても走らないんだったらもう使わないから」みたいに言われて。
僕が出て盗塁失敗ですよ。加藤さんがフォアボールで出て失敗して。屋鋪がヒットで出て走って失敗ですよ。
3人黙ってたら満塁になってんのに。そういうこともたくさんありましたね。もうむちゃくちゃですよ。

徳光:
でも走らないと怒られちゃう。

高木:
それが大洋時代の強みだったんで。だからそれは失敗してもいいと。

徳光:
3人それぞれ、やっぱり盗塁の仕方は違ったんですかね?そういうのってありますか。

高木:
それはやっぱり全然違いますね。

徳光:
盗塁の特徴のようなものは。

高木:
加藤さんがよく言ってたんですけど、「豊は都会的な走り方するよね」。

徳光:
シティーボーイ。

高木:
なんかね。

徳光:
都会っぽいってどういうこと?

高木: 
まあ洗練されているというかスマートだというね。
で、屋鋪は野性味あふれるというか、強引だなという。
これでスタート切ってセーフになるんだっていうぐらい、スタートが悪くてもセーフになってましたとか。
加藤さんはその中間かなというような。

徳光:
よく今、足の速い選手っていいますと、50メートル5秒8あるいは8切るみたいなことを言いますが、高木さんもそのくらい?

高木:
5秒8ぐらいだったですね。

徳光:
そんなやっぱり速かったんですか。

高木:
6秒は切ってたですね。

徳光:
一番速かったのは屋鋪さんですか?

高木:
屋鋪はめちゃくちゃ速いですね。キャンプの時に、ちょっと追い風だったんですけど、100メートル10秒台で走りました。

徳光:
そうですか。そんな選手がいたんですよ。
今、周東(佑京)選手とか速いじゃないですか。どうなんですか、屋鋪さんが今現役でいても一番速い?

高木:
可能性はある。でも五十幡(亮汰)が速いです。

徳光:
ああ、これは速いですね。

高木:
速いですよ。あの回転はね。

徳光:
すごいですね。

高木:
五十幡は僕速いと思います。

大の苦手は広島・白武 わかっていても打てないスライダー伝説

徳光:
ピッチャーで得意だった人はいますか?

高木:
西本(聖)さんが好きだったですね。
こういう打ち方したらヒットになるという打ち方を覚えたので。真ん中から来たシュートというのは、ほとんど外いっぱいぐらいに決まるんですよ。だから真ん中待ってて、そこから離れていって、そこにバットをポンと落とすと、サードの頭の上を越えていってくれる。
この打ち方を覚えてからすごく楽になった。

徳光:
そうですか。実際数字としましては、3割4分5厘打ってらっしゃるわけですよ。

高木:
よく調べてますね。

徳光:
逆に苦手だったピッチャーっているんですか?

高木:
白武(佳久)だな。

徳光:
白武?広島の。久しぶりに聞いた名前ですね、白武さん。

高木:
スライダーが消えるんですよ。

徳光:
本当だ。1割7分5厘。

高木:
ヒット7本も打ってるんですね。
僕の記憶では、止めたバットに当たって三遊間抜けたのと、ホームラン1本は覚えてるんですよ。あと覚えてないです。そのぐらい嫌いだったんです。

高木:
もう達川さんが教えてくれるんですよ。「スライダーいくけぇのう」。「いいんですか」って、「本当ですか」って言ったら、「お前打てんけぇ、スライダーいくわ」、言うて。スライダー来るんですけど、タイミングが分からないんですよ。どこで振っていいのか。
ほかは打つんですよ、ほかの選手は。まったく合わなかったです。

徳光:
そういうことってあるんですね。
苦手意識を持つと、より以上に深みにはまるんですか?

高木:
深みにはまりますね。だから達川さんが教えてくれるんです。「おまえ、見えてないけぇのう」。いやらしいこと言うなと思う。