2025年10月7日でイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘開始から2年となる。
パレスチナ自治区ガザの死者は6万7000人を超え、物資の搬入は限られ、子供は栄養失調になり、ガザは今、飢饉に直面している。
UNRWA=国連パレスチナ難民救済事業機関の清田明宏保健局長に、ガザ地区での窮状の実態について聞いた。
戦闘開始から2年「生きているのか、死んでいるのか分からない」
イスラエルは、UNRWAがイスラム組織ハマスと関係があるとして国内での活動を禁止する法律を1月30日に施行。清田保健局長は事実上、ガザ地区に入ることができなくなり、取材は清田氏の滞在先であるヨルダンの首都アンマンとリモートで行った。

ガザ地区では2年も戦闘が続き、現在は著しく物資の搬入が制限されている。ガザにいる住民や現地で人道支援を続けているUNRWAスタッフの思いを清田さんに聞いた。
清田明宏保健局長:
戦闘開始から2年たっても、全く状況は良くならなく、生活がどんどんひどくなって、何度も何度も何度も避難させられています。ものすごく不安と怒りと、そして絶望感だと思います。
これ以上いつまで続けるんだ、このままだと生きているのか、死んでいるのか、分からない。ガザにいるのが非常にしんどいという声をよく聞きます。
飢饉発生「7カ月乳児の腕の太さが鉛筆2本分しかない」
国連は8月、人道危機が続くガザ地区の北部ガザ市とその周辺で食料不足が深刻化し、「飢饉」が発生していると発表した。
「飢饉」は、食料不足の程度で最も深刻な状況を示し、人口の少なくとも20%が極度の食料不足に苦しみ、子どもの30%以上が栄養失調に陥っているなどと定義されている。

清田明宏保健局長:
ガザ市で飢饉っていうのは、食料が単純にないだけでは絶対に起きません。食料、水、電気、医薬品、すべて足りていないからです。
つまり食料がなくて、水がなくて、電気がなくて、そして人間として当たり前の生活ができなくなって社会が崩壊して、それで飢饉が起こっています。
そういう意味では本当にガザで今、一番ないのは心の安定と平和です。

病院では、健康状態を確認するため子どもの腕の太さを確認している。
通常、約15cmだというが、UNRWAの医療施設にきた栄養失調の子どもの腕の太さは通常の約半分の8cmほどだった。

清田明宏保健局長:
7カ月のお子さんの腕の太さが8cmなんです。8cmっていうと私の指が2本入るぐらい。7カ月のお子さんの腕の太さが鉛筆2本ぐらいの大きさというのは本当に信じられなくて、ガザがいかに崩壊しているかというのを象徴しているかと思います。
「空腹で仕事をしながら失神する職員がいる」
食糧不足の影響は人道支援を行っているUNRWAのスタッフにも及んでいる。食事をとれずに仕事をしているため、倒れてしまう職員が出るほど過酷な状況だという。
清田明宏保健局長:
UNRWAの職員もほとんどがやせていて、40kgやせた人もいます。飢饉の厳しい時には職員が仕事をしながら失神すると。ご飯を食べていないので仕事をやっているけれども、空腹のあまり失神するという例が結構上がってきています。
本当に一般市民の方のみだけではなく、人道支援をしているスタッフも今、非常に厳しい状態です。

清田明宏保健局長:
ガザ地区には36の病院がありますが、現在そのうちの14の病院しか機能していなくて、その病院も医療機能の半分しか動いていません。市民はきちんとした治療が受けられず、持病が悪化する。体力が落ちたうえに食糧の不足が起こって、体がますますやられてしまっています。
物資搬入後も略奪の危険性
清田さんの滞在するヨルダンには、ガザ地区へ送るための大量の支援物資が用意されている。しかし、イスラエルが出す搬入への許可基準が厳しく、ほとんどが留め置かれたままの状況だ。
清田明宏保健局長:
ヨルダンの首都アンマンに大きな倉庫を借りていて、そこに3カ月分の食料があります。それをガザ地区に搬入できれば、今の飢饉は急速に改善できます。
医薬品もガザ内部で大幅に不足していますが、同じ倉庫に半年分の医薬品が置かれています。医薬品が入れば持病がある子どもさんの治療もできますし、とにかく早く搬入したいです。

現在はガザ地区へ支援物資を搬入することが難しいうえに、搬入できたとしても激しい戦闘状況のため、ガザ地区内の移動を困難にさせ、略奪の危険性も高まっている。
清田明宏保健局長:
イスラエル側の搬入基準が非常に厳しくて、ガザ地区との境界にケレム・シャローム検問所がありますが、そこに行くまでにいろんな許可がいります。そこに荷物を降ろせたとしても、ガザ内部から支援物資を取りに来る必要があります。
しかし、戦闘行為が続いていますので、イスラエル軍に通行の許可をもらわないと、危険のため取りに行くことができません。そしてその許可もなかなか出ない。イスラエル側の制約が非常に強いため、搬入するのが難しい状況です。

清田明宏保健局長:
物資が何も入らなくて戦闘行為が続いていると、いわゆる地元の警察もきちんと機能していませんし、人々の心は乱れます。人間はやはり生き延びなければいけないので、入ってきた物を略奪するという行為が起きてしまいます。ガザでは略奪をきちんと取り締まる法的なシステムが崩壊していますから、それが続いています。
略奪した人は、自分の家に持って帰って食べるという人もいるのですが、やはりお金が必要ですので市場で高い価格で売る人もいます。決して認められることではないのですが、人々が生きるためにこういうことが起こってしまっています。
パレスチナ国家の承認は希望の光
アメリカ・ニューヨークの国連本部で9月、イギリスやフランスなどがパレスチナの国家承認を宣言し、パレスチナを承認する国は国連加盟193カ国の約8割となった。
フランスのマクロン大統領は、国家承認が「唯一、平和を可能にする解決策」と強調し、「今こそ戦争を終わらせる時が来た」と呼びかけた。
清田明宏保健局長:
パレスチナ国家の承認によって、ガザ地区の状況がすぐに改善するとは誰も思っていません。そんなことは起きないのですが、ガザの人にとっては将来に向かって一つの希望になる、一つの枠組みができたっていう意味では注意深く見守っています。やはり希望なんです。

清田明宏保健局長:
ハマスが2年前の10月7日にやったことは、絶対許されることではありません。しかし、だからといって、イスラエルがガザの人たちを、特に一般市民、あるいは人道支援をしている人々にこれほどひどい目に合わせ、人間の尊厳を奪うことを行うことは、絶対に許されることではありません。一日も早く停戦していただき、きちんとした生活に戻れるようにしていただきたい。