大谷翔平選手の元通訳・水原一平氏(39)の違法賭博疑惑。なぜ6億8000万円もの巨額な借金を抱え込むまでになってしまったのか?”違法賭博”スクープ記者が、90分にわたる水原氏へのインタビューの舞台裏を語った。さらに、「Mr.サンデー」は違法賭博の”元締”ボイヤー氏を知る人物を取材、知られざる違法賭博の実態にも迫った。

開幕戦直前、水原氏に90分インタビュー

3月20日に韓国・高尺スカイドームで行われたMLB開幕戦2時間前、午後5時半頃。

いつもの様にウォームアップする大谷翔平選手の後方には、きっと心中穏やかではいられなかったはずの水原一平氏の姿があった。水原氏は、一体、どんな思いで、このグランドに立っていたのか?

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スポーツ専門チャンネル「ESPN」のティシャ・トンプソン記者はこう振り返る。

ーー水原氏とのインタビューは19日深夜でしたよね?
「ESPN」ティシャ・トンプソン記者:

そう、アメリカ東海岸の(19日の)火曜日深夜です。韓国では(20日の)水曜日午前中。つまり、開幕戦が始まる数時間前でした。

つまりは、開幕戦に臨む大谷を見送る数時間前に自らの過ちを告白していたという水原氏。

「ESPN」トンプソン記者:
インタビューは合計90分に及びました。聞きたかった内容の全てを聞きました。賭博を始めたきっかけ、どこでブックメーカーと出会ったのかなど。

だが、実は、この問題を追っていたのはESPNだけではなかった。

その一つ、米大手新聞社「ロサンゼルス・タイムズ」が今回の疑惑に気付いたのは意外な方向からだったという。

「ロサンゼルス・タイムズ」グスタボ・アレラーノ記者:
それは、ロサンゼルス・タイムズが長年追っていた、カリフォルニア州での違法ギャンブル取材の一環でした。その調査の中で、ある情報筋から、カリフォルニア州で違法賭博を運営するマシュー・ボウヤー氏が関与する件が浮かび上がったのです。

マシュー・ボウヤー氏とは今回、水原氏が大谷選手の口座から送金していた違法賭博の元締め。

「ロサンゼルス・タイムズ」グスタボ記者:
そのボウヤー氏の自宅に去年の10月、家宅捜索が入りました。その捜査で浮上した名前の一人が大谷翔平選手だったのです。

なぜ大谷翔平選手の名前が顧客リストに?
なぜ大谷翔平選手の名前が顧客リストに?

一体なぜ、違法賭博の顧客リストに大谷翔平の名前が出てくるのか?

「ロサンゼルス・タイムズ」グスタボ記者:
私も、私の同僚も信じられませんでした。大谷翔平は野球界で最も重要な選手で、国際的な野球界の顔です。

その時、まったく同じ情報を掴んでいたのがESPNのトンプソン記者だった。彼女は、すぐにドジャースやMLBに取材をかけ、違法賭博に手を出していたのは、大谷選手ではなく水原一平氏だったという情報を入手する。

こうして彼女は、開幕戦の直前90分に及ぶ水原氏の電話インタビューを行ったのだった。

「ESPN」トンプソン記者:
水原氏は、2023年に大谷選手に対して「助けてほしい。お金を工面して欲しい」と相談した。大谷選手は良い反応をしなかったが「お金を払って助けてあげる」と言ったと話しました。

この言葉こそが、後に水原氏自身が「全て嘘だった」と覆すことになる発言だった。

さらに、その後、ESPNが公開した水原氏インタビューの詳細はあまりに生々しかった。

「ボウヤー氏と出会ったのは2021年。その直後から信用取引で賭けを始め、2022年の終わりには、100万ドル以上の損をしていました。友人や家族からもお金を借りていた」

驚くべきことに、1年余りで100万ドル、約1億5000万円の負けがこみ、友人や家族からも借金をしていたという水原氏。しかし…

「翔平には、このことは打ち明けられなかった。生活費をやりくりするのも大変だったし、その日暮らしの毎日だった。なぜなら、翔平のライフスタイルにも合わせなければならなかったから。でも、彼には言いたくなかった。

しかし、その負債が、2023年の初頭に400万ドル、約6億円にまで膨れあがった頃…。

「翔平の信頼を失うことを恐れ、また誰かが家に来るかもと、自分自身の身の安全も心配でした」

と語ったという水原氏だったが、結局…

「翔平に打ち明けた後、彼を見るのもつらかったが、彼は素晴らしい人で、何もなかったかのように生活を続けてくれました」

さらに、大谷自身が賭けに興じたことはなく

「賭博はひどい。なぜ皆、こんなことをしているのかと、彼はいつも言っていました。遠征中に「カジノに行こう」と誘われても、翔平は決して行かなかった…」

そして「妻は、今も全く知りません」と語った水原氏。こうした生々しいインタビューの中、語られたのが「大谷選手に借金の肩代わりをして貰った」という言葉だったという。

「ESPN」トンプソン記者:
その事実が最初のインタビューの一番大事な内容といえます。
水原氏は自分が作った負債を肩代わりしてくれるように大谷選手に助けを求め、大谷選手は承諾した。
大谷選手本人がパソコンを操作して送金を実施した。水原氏の指示通り、目の前で行ったという話です。それはブックメーカー(元締)からの指示だったと…。

大谷選手が送金することがボウヤー氏からの指示だと語った水原氏。
一体何のためだったのか?

「ロサンゼルス・タイムズ」グスタボ記者:
我々の情報筋によると、ボウヤー氏はビジネスを拡大するために、大谷との関係を自慢していたそうです。

「ESPN」トンプソン記者:
ボウヤー氏にとっては、それはマーケティング戦略の一部だったのです。

”元締”ボウヤー氏の自宅へ…

ボウヤー氏とは一体、どんな人物なのか?

マシュー・ボウヤー氏の自宅を訪ねるが応答がなかった
マシュー・ボウヤー氏の自宅を訪ねるが応答がなかった

自宅を訪ねたところ反応がなかったため、入手している電話番号に電話をかけたところ応答があった。

ボウヤー氏「あー、ノーコメント。でもありがとう。いい一日を…」
ボウヤー氏「あー、ノーコメント。でもありがとう。いい一日を…」

ディレクター:
(英語のやりとり)ハロー、ボウヤー氏ですか?
ボウヤー氏:
そうです…。
ディレクター:
日本のテレビですが、いくつか質問してもいいですか?
ボウヤー氏:
あー、ノーコメント。でもありがとう。いい一日を…。

その後、関係先とみられる施設を訪ねても一切取り合ってもらえなかった。
そこで数々の質問をメールで投げてみたが、ボウヤー氏の代理人から「(マシュー氏は)大谷さんと会ったことも話したこともありません」と一言、返信があっただけだった。

では、こうした事実が、世に出たのはなぜだったのか?

開幕戦後に球団オーナー「ある報道が発表される」

事態が動いたのは韓国で行われた開幕第一戦が終わった時だった。

「ESPN」トンプソン記者:
ドジャースの選手は、ドアが閉められた部屋に集められ、球団オーナーから「これからある報道が発表される」と聞かされたそうです。

ロサンゼルス・タイムズやESPNの取材を受けて、もう報道は抑えられないと覚悟したのだろう。その時、ミーティングに参加していたドジャース関係者から、トンプソン記者はこのような話を聞いている。

「ESPN」トンプソン記者:
その関係者によれば、水原氏が突然立ち上がり、「僕はギャンブル依存症です」と謝罪したそうです。その場にいた選手の一人が、「だから何?問題は何なんですか?」というと、別のドジャース幹部が「大谷選手が水原氏の借金を肩代わりして返済している」と話したようです。

「だから、何なのか…?」
実際、アメリカでは50のうち38の州で、スポーツ賭博は合法とされ、例えMLBの選手でも、野球以外のスポーツであれば賭けを行っても、取り立てて騒ぎ立てることではない。つまり、問題はそこに大谷の名前が挙がったことだった。しかも…

「ロサンゼルス・タイムズ」グスタボ記者:
マシュー・ボウヤー氏は連邦捜査の対象で、違法ギャンブル組織を運営していると言われているのです。

違法賭博の実態…合法との違いとは

違法なギャンブル組織とは一体どういうものなのか?

「ロサンゼルス・タイムズ」グスタボ記者:
当局や政府から適切な承認を得ずに、こっそり目立たないよう、自分で元締をやってしまう。それが、合法との違いですね。

ブックメイカーの資格を持たない者が闇で元締を務めてしまう…日本では、いわゆる「ノミ行為」と呼ばれるのがアメリカで言う「イリーガルブックメイキング(違法賭博)」

例えば、「競馬」など、合法の賭博であれば顧客の掛け金は、実際に馬券を買うことに当てられ、勝てば、その分の配当を得ることが出来る。
しかし、「ノミ行為」を行う違法な元締はその掛け金を、すべて自分の懐に飲み込んでしまい決して、馬券を買うことはない。

そのため、もし、顧客が賭けに勝てば、当然、自分の懐から配当金を払うことになるが、当たることなど、めったにないのが賭博の常。顧客が負ければ、まる儲け。

実際、違法賭博に詳しくボウヤー氏を知るという人物は、私たちの取材に対し、闇賭博の実態をこう指摘する。

ボウヤー氏を知るという人物:
ボウヤー氏などが手がける違法賭博は、ネットサイトなどなく、顧客とのやりとりも、電話や、証拠の残らないテキストで行われる。

さらに、顧客が深みにはまっていく仕組みについて、ボウヤー氏を知るという人物は、「賭ける側は、信用で賭ける事ができるため、前もって賭け金を払う必要はなく、電話やテキストで賭け、負けたらその分を1〜2週間後に支払う仕組みだ」と説明した。

電話で気安く賭けることができ、賭け金は後払いというシステムが顧客を深みへと引きずり込みむ。

ボウヤー氏を知るという人物:
もちろん、勝った場合はボウヤー氏が顧客に支払うが、そんなことはめったになく、多くの場合、賭けた人の負け分が、丸まるボウヤー氏に入ってくる仕組みだ。

こうした罠に水原氏はハマっていったのだろうか。

USAトゥデー紙記者「肩代わりした話を信じる」

しかし、本当の問題は、開幕戦の直前、水原氏がトンプソン記者に語っていた話を翌日、全て覆してしまったことだ。

「ESPN」トンプソン記者:
私は、「一平さん、昨日は私に嘘をついていたのですか」と聞くと、彼は「はい」と答えました。彼は「大谷選手は僕の賭博の負債について一切知らず、大谷選手は実際には送金は行っていない。大谷選手は送金について一切知らない」と話したのです。

これこそが、いま、一番の謎とされている水原氏の発言撤回だ。

一体、どちらが真実なのか?40年以上メジャーリーグを取材する米「USAトゥデー」紙のボブ・ナイチンゲール記者は、こう語る。

米「USAトゥデー」紙 ボブ・ナイチンゲール記者:
私は、大谷選手が友人を助け、友人に苦しんで欲しくないので肩代わりしたという最初の話を信じますね。

では一体、何のために、証言を覆したのか?

「USAトゥデー」紙 ボブ記者:
恐らくは、大谷選手か、彼の代理人が、友人を助けたりすることすら違法の可能性があると気付き、大谷選手が困らないよう話を変えたのでしょう。そんなことすら許されないという話になったんだと思います。

大谷を守るため、一夜にして話が変わってしまったと語るボブ記者。
しかし、実際には、大谷選手が水原氏を助けていたところで大したペナルティは、受けないだろうと言う。

「USAトゥデー」紙 ボブ記者:
連邦政府だって、マシュー・ボウヤーという違法賭博業者を捜査しているだけで、水原氏や大谷選手には興味ありません。たとえMLBから罰せられたとしても、多少の罰金はあるかもしれませんが、出場停止になった場合も、1、2試合以上にはならないでしょう。時間がたてば、全て元通り。彼(大谷翔平選手)の評判も、きっとそのままですよ。

弁護士「大谷選手は捜査対象になる可能性高い」

24日、MLBが大谷翔平選手と水原一平元通訳の調査を正式に開始したとの声明を発表。さらに地元メディアが報じていた”水原氏の学歴詐称疑惑”で、MLBの公式ページに同氏の卒業校として記載されていた、カリフォルニア大学リバーサイド校について、「在籍した記録がなかった」ことが同校への取材で判明した。

樋口一磨弁護士によると、水原氏が問われるであろう違法賭博については、違法かどうか知らなかったということは免責事由にはならず、罰金1000ドル(約15万円)以下、禁固6カ月となる可能性がある。

さらに、水原氏に大谷選手の口座管理権限があった場合は横領となり、罰金5000ドル(約75万円)以下、禁固3年以下、口座管理権限がなかった場合は窃盗となり、罰金1万ドル(約150万円)以下)、禁固3年以下の罪になるという。

一方、大谷選手への影響について樋口弁護士は、こう指摘する。

ーー捜査の手は?
樋口一磨弁護士:
大谷選手の口座から送金された事実は変わらないので、捜査対象になる可能性は高い。
ーー罪に問われる可能性は?
樋口一磨弁護士:
違法賭博と認識した上でも借金の肩代わりであれば罪に問われる可能性は極めて低い。

追記:
25日(日本時間26日)には、大谷翔平選手が”疑惑”について取材に対応する意向を示した。はたして大谷選手の口から何が語られるのか、注目が集まっている。
(「Mr.サンデー」 3月24日放送より)