今、「江戸走り」なる走り方でバズりまくっている「時の人」、大場克則さん(61)。
元は“昭和”の堅物エンジニアだったが、新人教育の際に上司から厳しい指摘を受けたことが転機につながった。
Mr.サンデーはその“逆転物語”を取材した。
理学療法の視点からの「江戸走り」研究も
SNSの動画総再生回数が2億7000万回を超える「江戸走りおじさん」こと、大場克則さん。

大場さんがひとたび街へ出ると、「江戸走りの人だ!」と、誰もがその存在に目を留めてしまう。その人気は今やSNSにとどまらない。
医療系の大学では「江戸走り」の体の使い方が理学療法に使えるのではないかと研究対象に。

その結果、「江戸走り」は、「通常の走り方」とは力のかけ方が違うと分かった。
学生からは、「体を壊さず、長く動き続けるための走りとしても『江戸走り』は多くの示唆を与えてくれるもの」とのお墨付きをもらったのだ。
「江戸走りは、ギャグではなくどうやら本気で使えるらしい」そんな噂が広がり、大場さんのワークショップを取材すると、スポーツ選手や整体師、日本舞踊の先生までもが参加していた。
上司から受けた“厳しい指摘”
とは言え、大場さん自身は「去年5月まで普通にサラリーマンをやっていて、まさかこんな日が来るなんざ思いもしなかった…」と語る。

大場さんは元は大手化学メーカーのエンジニアだ。
通常2週間かかる製品テストを2時間に短縮させるなど、膨大なデータを解析しトライ&エラーで突き詰める「研究者魂」の持ち主だった。

しかし、本人曰く、家と会社を往復するだけの平凡な人生だったという。
転機が訪れたのはある新人の教育を担当した時のこと。
仕事第一主義の大場さんは心配事があると、仕事が終わってもマメに連絡を入れ、昭和の「飲みニケーション」も欠かさなかった。
もちろん、その心は「一緒に気持ちを通じ合わせて、楽しく仕事をやれるような状況になって欲しかった」と振り返る。

しかし、そんな毎日が続いたある日。突然、上司から呼び出された大場さんは「業務時間外のメールに、飲み会の強要、ダメだよ!」と注意を受ける。
知らぬ間に、新人に訴えられていたのだ。
大場克則さん:
ショックでしたけどね。ただ、上司がそう言ってくるっていうことは、よっぽどなんだなっていうのは、自分でもわかったので。完全に考え方が違ったんだなと…。
注意を解析し参加したセミナーで“出会い”
業務時間外の連絡や飲み会の誘いをやめるよう上司から厳しく指摘された大場さん。
だが、ここでただでは落ち込んだりしないのが大場さんの真骨頂だ。
まずは、エンジニアらしく論理的に解析した。
大場克則さん:
私は相手の方の気持ちを無視して自分のことを押し付けてたわけなので、その態度というか考え方がいけない…。そんなところに気がついたというか、意識し始めたという感じです。

そこで、「人の心」について学ぶセミナーに参加する。すると、人の輪が広がり、江戸走りへと続くきっかけと出会う。
大場さんの趣味がジョギングであることを知った仲間から「100キロマラソンに出てみませんか?完走できたら最高に気持ちいいですよ」と誘われチャレンジしたのだが…。

万全の準備で参加したものの、あえなく70キロ地点でリタイア。
そこで、次こそは完走するぞと様々な走り方を研究しはじめた大場さんは手にした本の中に、「飛脚、忍び…一日に四十里とか五十里行く者がいる」という一節を発見する。

大場克則さん:
江戸時代の人は一日、100キロとか160キロとか走れたよ、みたいなものを読んでしまって。なんかそれがすごく気になっちゃったんですよね。「え、そうなんだ?」みたいな。
それが大場さんの研究者魂に火を着けた。
まずは、国会図書館に通いつめ、数少ない文献に当たると、「神足(しんそく)歩行術」の中に、「体をゆるめると100km走れる」という記述に目がとまった。
見よう見まねで、江戸時代の走りを再現してみるが…。

大場克則さん:
全身をゆるめると速くなるっていうか、その「長距離走れる」というのがどう頑張っても理解できなかった。
外国人が驚いた「歩き方」に注目
ならばと、実際の体の状態を浮世絵に学んだ。
「腰からの前傾姿勢で、膝はつま先の上まで曲がっているわけか…」と姿勢を真似てみたり、さらには、小泉八雲をはじめ鎖国が解けたばかりの日本で外国人が驚き、書き残した日本人の歩き方にも注目した。
そこには、「人々は皆がみな爪先で歩いている」「歩く時にはいつもまず第一に足指に重心が乗る」との記述も…。
こうして、大真面目な研究から浮かび上がったのは足を引きずり、つま先歩行で、前傾姿勢。
さらには、小股で内股など現代の走りとは全く一致しない特徴ばかり…。
しかし、それらを組み合わせ、走りを再現してみると…。
大場克則さん:
すごく勝手に体が進んでいく感覚。自分の足で蹴って進んでいくっていうんじゃない、体が自然に進む感覚っていうのが掴めたときは、やっぱりすごく楽しかったですよね。「羽が生えた」じゃないですけど。

苦節2年で会得した「大場オリジナル江戸走り」を武器に3年後の100kmマラソンに出場すると見事、完走でリベンジを果たしたのだ。
さらに、2023年にはこの走りを多くの人に伝えたいとYouTubeを開始。
翌年にはインスタなども始め、その成果が、あの「大バズり」へと繋がっていく。
聞けば聞くほど、不思議な縁…キッカケは、昭和のサラリーマンが踏んでしまった手痛い失敗だったが、今にして思えばと、大場さんは言う。
大場克則さん:
自分の今まで生きてきた方法をスイングバイさせて、別の方向に変えてくれた。そういう意味では人生において(あの新入社員は)決定的な変化をもたらしてくれた存在かなと思います。
私はすごく感謝しています。向こうは迷惑だったかもしれないですけど(笑)。
飲み会にも100km走って参加
尽きない研究者魂から江戸時代の食事を取り入れようと「玄米菜食」の料理教室に通っていたという大場さん。その時、知り合った友人にはこんな迷惑を掛けているそうだ。
料理教室仲間の石川美聡さん:
毎年飲み会をしているんですが、横浜で飲み会をするのに、そこまで大場さんが自宅から走ってくるっていうのが最初の頃の恒例で…。

自宅のある、栃木・小山市から横浜までの約100kmを走ってくるという。
スタートは朝5時。チャットで位置情報が送られていた。

料理教室仲間の石川美聡さん:
夜7時ぐらいからの飲み会なんですが、あまりにも大場さんの到着からお店のラストオーダーが短くて。滞在時間は30分ぐらいですかね。大場さんとあんまり話せず同窓会が終わるという(笑)。
あくまでも、マイペースでポジティブな大場さんには、いま、叶えたい夢があるという。
大場克則さん:
そもそも江戸時代自体がいわゆる機械・動力を使わない、すべて人間の力だけでこなしていくための技術が一番進んでいた時代だと思っているんです。
歩くという移動手段においても究極の進化をしていた時代だなと思っているので、これはある意味、人類が極めたすごい財産じゃないのかなというふうに思いまして。
だとしたら、それをきちっと残しておくっていうのは、まだオタクの自由研究とはいえ自分が生きた証なのかな、と感じています。

テクノロジー全盛の時代だからこそ人類の「究極の力」を残したい。
「江戸走りおじさん」の夢は、今日も走り続けている。
(「Mr.サンデー」1月18日放送より)

