最大野党代表に対する殺人未遂事件(1月2日)に、元アナウンサーの女性国会議員を狙った傷害事件(1月25日)。
韓国で政治家への襲撃が相次いだことを受け、今、問題視されているのが、過激な主張を繰り返す「政治YouTuber」だ。スマートフォン片手に、政治家の動向や集会の様子などを発信する彼らが、「保守」と「革新」の分断を先鋭化させている。

襲撃された最大野党のイ・ジェミョン代表(左)と与党のペ・ヒョンジン議員(右)
襲撃された最大野党のイ・ジェミョン代表(左)と与党のペ・ヒョンジン議員(右)
この記事の画像(6枚)

世界的な選挙イヤーとされる今年、韓国では国会議員総選挙(4月10日)が行われる。与野党の結果次第では日韓関係に影響を与える可能性のあるこの選挙が、政治YouTuberによる“フェイクニュース”で混乱する懸念もあり、法規制を急ぐべきとの声が挙がっている。

「政治YouTuber」急増!?半数が“フェイク”

ソウル特派員として取材していると、あらゆる現場で政治YouTuberを目にする。記者の数より多いこともざらだ。実際、韓国で「ニュース/政治/イシュー」カテゴリーのYouTubeチャンネル数は1,384個、映像の数は、のべ約480万個(2022年末時点の概算)に上る。

テレビカメラ(左)より多いYouTuberのスマートフォン(2023年2月)
テレビカメラ(左)より多いYouTuberのスマートフォン(2023年2月)

問題は、そこに「保守」や「革新」に極端に偏った見解やフェイクニュースがあふれていることだ。韓国国会立法調査処(2023年12月発表)によると、分析した80個のチャンネルのうち、「憎悪」や「敵対」の表現が含まれる割合は85%を超え、「誤った情報」または「誤った情報を含む可能性」があるチャンネルも50%に達した。

大統領・政治家よりYouTuberを信頼

一方、韓国国民にとってYouTubeは主要なニュース情報源として定着している。「デジタルニュースリポート2023韓国」によると、回答者の53%が「直近1週間にYouTubeでニュースを視聴した」と答え、5年間で22ポイントも上昇した。これは、米・英など世界46カ国の平均(30%)を大きく上回る数値だ。

1月2日、革新系・最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表を襲い、首に深さ2センチの刺傷を負わせた60代の男も、保守系の政治YouTubeを好んで視聴していた。7746文字に及ぶ男の犯行声明には「被害者(李代表)が大統領になり、国が左派勢力に渡ることを防ぐためだった」などと記されていた。

起訴された60代の男は事件前、木を人に見立ててイ代表を刺す練習をしていた(1月1日)
起訴された60代の男は事件前、木を人に見立ててイ代表を刺す練習をしていた(1月1日)

また、韓国教育開発院などが中高生を対象に実施した調査(2023年)では、YouTuberなどのインフルエンサーを信頼できると答えた人が31.5%で、政治家(23.4%)や大統領(22.7%)を上回る結果となった。全北大学校のソル・ドンフン教授は「YouTubeの政治チャンネルは、青少年や高齢者の判断力を低下させ、ひどい場合は誰かを除去しなければならないという誤った使命感を生じさせてしまう」と警鐘を鳴らす。