政治YouTube台頭の背景に大手メディアへの不信感

では、なぜ韓国国民は政治YouTubeに依存するのか。世論調査会社「韓国リサーチ」によると、YouTubeを見る理由として「放送・新聞が扱わない情報を与えてくれるため(32.6%)」が最も大きく、放送・新聞が「歪曲された情報を盛り込むため(25.5%)」、放送・新聞が「特定陣営の論理を代弁するため(25.0%)」の割合も高かった。

偏向報道を謝罪するKBSの新社長ら(2023年11月)
偏向報道を謝罪するKBSの新社長ら(2023年11月)

韓国では保守から革新、革新から保守へと政権が交代するたび、放送局の幹部が“総入れ替え”となることも珍しくない。
去年11月にも、日本の「NHK」にあたる「KBS(韓国放送公社)」で、革新系の文在寅(ムン・ジェイン)前政権時代に任命された社長が偏向報道などを理由に解任され、保守系紙の幹部が新社長となった。こうした露骨な「御用放送」化も、国民の大手メディアへの不信感を増大させ、政治YouTubeが台頭してきた一因であろう。

“スーパーチャット”&“アルゴリズム”が招く政治的「洗脳」

前述した最大野党代表の襲撃事件後も、政治YouTuberは精力的に発信を続けた。韓国メディアによると、代表が入院した医療機関には60人あまりのYouTuberが駆け付け、中には専業主婦から転身したという女性もいた。

現場では、多額の“スーパーチャット”を得ようと、過激な生配信が相次いだ。スーパーチャットとは、YouTubeの配信中、賛同した視聴者が現金を投じる、いわばインターネット上の“投げ銭”だ。
右派YouTuberは事件について「野党の自作自演」などと流布し、対する左派YouTuberは、被告の男が犯行前に警察官と話を交わしていたとして「警察が襲撃事件の黒幕だ」などと主張し、荒稼ぎした。事件後のわずか約1週間で計600万ウォン(約66万円)の収益を上げたYouTuberもいたという。

イ代表が退院した際にも大勢のYouTuberが駆け付けた(1月10日)
イ代表が退院した際にも大勢のYouTuberが駆け付けた(1月10日)

配信は刺激的であればあるほど、より多くの視聴者から金を得られるため、ますます事実から逸脱していく。そして一度視聴すれば、YouTubeの「アルゴリズム」で、似たような内容の映像ばかりが推薦されるのだが、このシステムを知らない特に高齢者層は、より一層、フェイクニュースに没頭してしまう。韓国人の知人女性(20代)は「親が洗脳されないよう気にかけている」とこぼした。