“ハマスイ”の愛称で人気の桂浜水族館で人工哺育(ほいく)されたアシカが、繁殖のため兵庫県の動物園へ旅立った。出産直後から飼育員の家で育てられた“おてんば娘”の2年6カ月を振り返る。

桂浜水族館のアイドルアシカ「コエル」

高知市にある桂浜水族館のカリフォルニアアシカ、コエル(2歳・メス)。
水族館の公式YouTubeで動画が36万回も再生された、まさに“アイドル”だ。

桂浜水族館の“アイドル”アシカの「コエル」
桂浜水族館の“アイドル”アシカの「コエル」
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日課は飼育員との散歩で、階段を上ったり、水族館を飛び出したり…のおてんば娘。
2023年12月、繁殖のため兵庫県の神戸市立王子動物園に引っ越すことが発表された。

水族館の外で散歩をするコエル
水族館の外で散歩をするコエル

兵庫から来た人:
お引っ越しするって聞いて、もうここで会えるのも最後かなって思って

滋賀から来た人:
触れ合いしてくれてありがとう

人工哺育で育てられ…愛情たっぷり「特別かわいい」

コエルが人懐っこい理由は、育った環境にある。

2021年6月。飼育員たちが見守る中、平均の7倍に当たる7時間にも及ぶ難産の末に、母・エルから生まれたコエル。

2021年6月 難産の末に生まれたコエル
2021年6月 難産の末に生まれたコエル

飼育員:
へその緒も確認…母親と何もつながっているものはない

飼育員:
いや、けど全然エル(母アシカ)が見る感じがないな

飼育員:
いつまで我慢できる?死ぬまで?それは嫌

飼育員:
そしたら(取り上げたら)人工(哺育)やで

出産から40分。飼育員たちが赤ちゃんを取り上げた。

館長:
よく頑張りました。(母アシカ)エルも頑張ったけど、あんたも頑張ったね、ようこそ

エルには育児ができる体力が残っておらず、桂浜水族館は、前例が少ない人工哺育を決断。
生後3週間はアシカ担当の飼育員の家で世話をした。

飼育員の家でくつろぐコエル
飼育員の家でくつろぐコエル

飼育員:
おい、プレステ4のコードかむな。プレステ4のコードをかむんじゃねぇ(笑)

飼育員の足に吸い付くコエル
飼育員の足に吸い付くコエル

中でもコエルが大好きだったのが、母親代わりにミルクをあげていた、飼育員歴40年の盛田勝寛さん(62)。

飼育員歴40年・盛田勝寛さん(62)
飼育員歴40年・盛田勝寛さん(62)

――コエルの性格をひとことで言うと、どんな性格?

盛田勝寛さん:
かわいい。天使

いつも仲良しの1人と1頭
いつも仲良しの1人と1頭

飼育員:
性格ちゃうやん(笑)かわいいにもいろんなかわいさがあるじゃないですか

毎年恒例、桂浜水族館の節分イベント名物「怖すぎる赤鬼」にふんしたときにも、盛田さんのおなかには「肥流(コエル)」の文字が。

桂浜水族館名物「怖すぎる赤鬼」にふんする盛田さん。おなかには「肥流」の文字が
桂浜水族館名物「怖すぎる赤鬼」にふんする盛田さん。おなかには「肥流」の文字が

盛田勝寛さん:
アシカの子はみんなかわいいですけど、その中でもコエルは特別かわいいかなと

愛情たっぷりに育てられ、生まれたときに6.7kgだった体重は、41.6kgまで増えた。

「娘だと思ってます」盛田さんと最後のひととき

そして、コエルの旅立ち前日。
週に3回通院し、透析をしている盛田さん。当日は通院のため、前日にお別れの挨拶となった。
つえをつきながら、コエルのプールに向かう。

最後のお別れの時
最後のお別れの時

盛田勝寛さん:
コエル!お~い!コエル。コエル、お別れやで

コエルと盛田さん、最後のひととき。

頭にくっつくコエルに、たまらず「しゃっけー!(北海道弁で寒い)」と叫ぶ盛田さん。
そんな2人を見守り、最後のツーショットを撮影する常連客もいた。

盛田さんのつえで遊ぶコエルに、飼育員が「高いぞ、そのつえ。多分」と声をかける一幕も。
 
盛田勝寛さん:
高いぞー!6,000円(笑)つえを相棒にするよ

飼育員:
そのつえにコエルって名前つけたら?そうしたら寂しくない

盛田勝寛さん:
そうか~(笑)

ひとしきり遊び、展示室から出た盛田さん。
「体力使い果たした…」と漏らしたが、その目は潤んでいるように見えた。

盛田勝寛さん:
ありがとうとしか言いようがないです。あれだけ俺のことを母親と思ってくれたんだから。やっぱり俺も娘と思ってますよ。それは遠くに行っても同じですね。王子(動物園)に来るお客さんたちにも愛されてほしいですね

最後に盛田さんにキスをして、コエルはプールに入っていった。

別れの時…「俺たちの人工哺育が終わった」

旅立ちの朝。桂浜水族館との別れの日がやってきた。

飼育員たちと最後の散歩
飼育員たちと最後の散歩

最後の散歩を楽しみ、ケージに入ったコエル。
ケージは車へと運ばれ、飼育員がコエルとの最後の別れを惜しんだ。

アシカ担当の飼育員:
いろんなことを我々に教えてくれた先生のような存在ですね。(神戸でも)元気いっぱいな姿を見せつつ、ほどほどにやんちゃしてねって感じですね

コエルを見つめて「俺たちの人工哺育が終わった、完結」「一区切りつきましたね」とつぶやく飼育員たち。その表情にはさみしさがにじんでいたが、どこかやりきった達成感も感じられた。

そして、お別れの時…。
飼育員に「こっち、ちゃんと見てる」「コエルありがとう。元気でね~」「コエちゃん、ばいば~い、頑張ってね。気をつけて」などと声をかけられながら、コエルは新天地へと旅立っていった。

誕生から2年6カ月。
飼育員とコエルは、親子のような絆でつながっている。

桂浜水族館によると、コエルは当日昼過ぎに神戸市立王子動物園に無事到着。
新しいプールで元気に泳いでいるということで、動物園の環境に慣れてから一般公開される予定だという。

(高知さんさんテレビ)

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高知さんさんテレビ
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