アメリカ・ミズーリ州の拘置所から2023年の暮れに釈放された、ジプシー・ローズ・ブランチャードさん(32)に全米メディアの注目が集まっている。ジプシーさんは2015年に当時の交際相手と共謀し、母親を刺殺した罪で8年半、服役していた。

注目される理由は、事件の経緯があまりに奇妙だったからだ。彼女は「代理ミュンヒハウゼン症候群」の母親に、幼少期から“重病人”とでっちあげられた被害者だった。

「加害者」か「被害者」か?奇妙な事件の真相は

ジプシーさんは幼少期から車椅子生活を送り、「白血病と筋ジストロフィー症、気管支ぜんそくを患いながらも前向きに生きる女の子」として知られていた。母子の健気な姿は注目を浴び、多額の寄付やセレブとの面会、招待旅行などを手に入れていた。

ところが、これは全て母親のディーディーさん(当時48)がでっち上げた病気で、ジプシーさんは不必要な投薬治療や手術を受けさせられていたことが後に判明する。ジプシーさんは虐待の被害者だったのだ。しかし医師たちは、介護に熱心なシングルマザーを演じていたディーディーさんに次々とだまされていった。

長年の虐待、母親は「代理ミュンヒハウゼン症候群」

当時、医師らはでっち上げの病気に気づくことはなかったのだろうか。実際、一部の医師は母親のディーディ-さんの様子に疑念を抱き、周囲に警告していた。

疑われていたのは、親などが周囲の同情心を買ったり注目を浴びたいがために「子供が病気だ」と偽装し、不要な治療などを繰り返して虐待したりする「代理ミュンヒハウゼン症候群(Munchausen Syndrome by Proxy)」だった。しかしディーディーさんは自身が疑われていると察するや否や、病院を変えた。また、娘が化学療法を受けて脱毛したと周囲に思い込ませるため、髪の毛を定期的に剃るなど偽装をしていた。

「自由の身になって初の自撮り」と投稿(インスタグラムより)
「自由の身になって初の自撮り」と投稿(インスタグラムより)
この記事の画像(6枚)

しかし虐待の被害者だったジプシーさんは、成長するにつれ、自身が実際には病気ではないとの自覚が強くなっていく。そして母親の異様なまでの束縛と虐待から逃れるために、母親を殺害したという。

獄中結婚の男性と新婚生活、一方で元交際相手は終身刑

こうした事件の奇妙な経緯は全米で大きな注目を集め、ジプシーさんへの注目は高まっていった。ジプシーさんは、TikTokだけでもすでに840万人のフォロワー(1月7日時点)がいる。

「みなさん、ジプシーです。やっと自由の身になったのー!SNSでものすごく支援してくれてありがとう」

出所直後に投稿した動画で、時折髪の毛をかきあげながら、ファンへのメッセージを送ったジプシーさん。そのしゃべり方や声は幼く聞こえ、獄中結婚した夫との幸せな姿も公開している。

出所後初めてした結婚指輪も投稿(インスタグラムより)
出所後初めてした結婚指輪も投稿(インスタグラムより)

一方で、事件の共犯者である元交際相手のニコラス・ゴデジョン服役囚は終身刑で服役していて、ジプシーさんと対比して「公平なのか?」とSNSなどでも論争が巻き起こっている。

すでに電子書籍の出版やドキュメンタリーシリーズの放送も予定されていて、数奇な運命をたどってきたジプシーさんの今後が注目される。
【取材・執筆:FNNニューヨーク支局 弓削いく子】

この記事に載せきれなかった画像を一覧でご覧いただけます。 ギャラリーページはこちら(6枚)
弓削いく子
弓削いく子

心身を整えるためにヨガをこよなく愛す。
Where there’s a will, there’s a way.
FNNニューヨーク支局長。ニューヨーク市生まれ。1993年フジテレビジョン入社、警視庁、横浜支局、警察庁、社会部デスクなど、駆け出しは社会部畑。2010年からはロサンゼルス支局長、国際取材部デスクを経て現職。