4つの市民襲撃事件で、1審で死刑判決などを受けた特定危険指定暴力団「工藤会」最高幹部2人の控訴審の2日目。1審での無罪主張から一転、犯行を指示したことを認めた組織ナンバー2の田上不美夫被告(67)。野村被告へ抱いている自らの心情を語った。
「野村総裁は父親のような存在」
9月27日、福岡高裁で行われた被告人質問で、田上被告は、総裁の野村悟被告(76)への“心酔”を口にした。
この記事の画像(19枚)弁護人:
野村総裁はどんな存在?
田上被告:
父親のような存在です。ひとことで言えば、好きというような存在
弁護人:
どんな人?
田上被告:
人に暴力を振るうようなこともなければ、徳で人を引っ張っていくような人です。「五代目工藤会」を譲っていただいた方です
さらに田上被告は、関与を認めた看護師刺傷事件についても語り始めた。
「総裁を侮辱して、からかった」
弁護人:
どうして指示をした?
田上被告:
カッと来ました。総裁を侮辱して、からかった
事件のきっかけになったとされるのは、2012年に野村被告が美容整形クリニックで受けた、下腹部の手術と顔と下腹部のレーザー脱毛の施術だ。
クリニックに勤めていた被害者の女性看護師は、野村被告が脱毛レーザーを痛がった際、「野村さんでも痛いのか、刺青に比べたら痛くないでしょ」と言ったという。
弁護人:
この話を聞いて?
田上被告:
刺青を入れたことのないオバハンが、そんなこと言うのねと、カッと来ました
弁護人:
誰に指示を?
田上被告:
菊地敬吾に指示をしました
弁護人:
なぜ頬をはつれ(切りつけろ)と?
田上被告:
見せしめと思って。一生傷が残って恥ずかしい思いをしたらいいと思いました
弁護人:
総裁の指示では?
田上被告:
ありません
さらに田上被告は、自らが推していた人物が漁協の代表理事に選ばれなかったことから、亡くなった梶原さんの息子に恨みを抱き、菊地被告に犯行を指示したと語った。
田上被告:
家族を痛めつけようと思いました。お尻を刺せと指示をしました
工藤会は「しかるべき人間に譲りたい」
そして田上被告は、2つの襲撃事件を実行し、無期などの懲役刑を受けた組員たちに謝罪した。
田上被告:
生きて帰れるか、帰れないかの判決を受けてますし、その人にも家族がいるから、本当に申し訳ないと思ってます。正直言うて、後悔しました。これだけの人間を長い懲役にさせたことを後悔しました。全て私の責任だと思います
そして、話は工藤会の今後についても及んだ。
弁護人:
工藤会のこれからは?
田上被告:
私が作った会ではありませんので、しかるべき人間に譲りたいと思います。工藤会は、なくすつもりはありません。1人でも2人でも帰ってきてほしい。普通の人間に言ってもわかりませんけど、こういう世界じゃないと生きられない人間もいる。世間から見たら暴力団 = 弱者だと思います
弁護人:
あなたの最期はどうなると思ってますか?
田上被告:
獄中死と思ってます
一方で田上被告は、元漁協組合長射殺事件と元警部銃撃事件については関与を否定した。
野村被告はあらためて関与を否定
そして、この日の午後からは、「工藤会」のトップ・野村被告が証言台に立ち、あらためて4事件への関与を否定した。
弁護人:
襲撃を指示したことは?
野村被告:
ありません
弁護人:
襲撃を聞いたことは?
野村被告:
聞いたこともありません
弁護人:
死刑をまぬがれるためにウソをついているということは?
野村被告:
そんなことありません!
さらに一転、看護師事件と歯科医師事件を独断で起こしたと主張した田上被告について問われると―。
弁護人:
2件の事件について、田上さんが指示したことを話しましたが、どう思いますか?
野村被告:
田上も私のことを思って、私のことをものすごく思いすぎる人間ですから、すまんな、と
弁護人:
看護師に対しては?
野村被告:
申し訳ないな、と思いよります。「ごめんね」とまた会って謝罪したいくらいです
弁護人:
歯科医師に対しては?
野村被告:
本当に申し訳ないと思います
そして―。
注目すべきは2人の信頼関係
弁護人:
裁判官に言いたいことはありますか?
野村被告:
本当に申し訳ありませんでした。公正な判断をお願いしたいと思います
さらに野村被告は、総裁という立場を今後、工藤会からなくし、工藤会との関係を断ち切ると話した。そして検察側に「むちゃくちゃむごいことをしよるんですよ」と述べた。
1審から大きく主張を変更して、自身の指示だと認めた田上被告だが、注目すべきは田上被告の野村被告に対する忠誠心、そして2人の信頼関係だ。
被告人質問の中で、田上被告は野村被告を「父親のような存在」「徳で人を引っ張って行くような人」と話し、野村被告は田上被告を「若いころからずっと見てきた一番信頼の置ける人」と話した。
こうした関係性から、田上被告が大きく主張を変え、自身が責任を負うことで野村被告をかばっているという見方もある。裁判所が今後、これをどう判断するのか注目される。
(テレビ西日本)