“日本柔道界最強の男”と呼ばれる、現全日本柔道連盟会長・山下泰裕。

203戦無敗という大記録を打ち立てた山下を含め、過去誰も成し遂げたことのない5度目の世界選手権制覇を成し遂げようとする男が、5月7日(日)からカタールで行われる世界柔道選手権に登場する。

その男は、今年で日本代表10年目を迎える東京五輪金メダリスト・高藤直寿(29歳・「高」ははしごだか)だ。

2023世界柔道選手権ドーハ大会初日、高藤を中心に、躍動が期待される3選手の注目ポイントを解説する。

日本で最も『世界』を知る高藤の気合い

高藤直寿の世界選手権デビューは、2013年リオデジャネイロ大会だ。

2013年リオデジャネイロ大会での高藤
2013年リオデジャネイロ大会での高藤
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決勝でアマルトゥブシン・ダシダワー(モンゴル)を破り、初の世界一に輝いた当時20歳の青年は、表彰台で涙を浮かべた。

世界選手権・男子60キロ級での世界一は、五輪3連覇のレジェンド・野村忠宏が制した1997年以来、16年ぶりの快挙だった。

「当時はとにかく嬉しかったですね。『世界チャンピオンじゃん!』みたいな、今では味わえないような感覚でしたし」

今や現日本選手団で最も世界を知る男は、東京五輪金メダリストとして凱旋を果たした昨年の世界選手権でも圧巻の強さを見せ、レジェンド山下らに並ぶ、日本男子最多タイ4つ目の金メダルを掴んだ。

世界選手権デビューから10年目となり、今年で7度目の出場となる高藤は、“伝説”を目指していると豪語する。

「ちょうど10年目なので、今回優勝して、この10年で世界選手権5回と、オリンピック金メダル1回、オリンピック銅メダル獲れていたら、そんな幸せな人生無いと思います。やっぱりそこは“高藤直寿”というめちゃくちゃ強い柔道家がいたということを、伝説になれるぐらいに、最後ここでまとめあげたいですね」

節目の世界選手権に気合いは十分だ。

連覇ともなれば、最短で2023年6月にも早期内定できるという選考基準が発表されたばかりのパリ五輪代表にも大きく近づく。

「もう一度オリンピックで金メダルという気持ちが、さらに大きくなってきています。次の世界選手権が2番手との差をさらに突き離せる最高のチャンスなので。とにかくパリ決めます」

五輪・世界W王者の強さの秘密

高藤の強さを裏付けるのは、その“柔道IQ”だ。

自身の試合を見ながら解説する高藤
自身の試合を見ながら解説する高藤

昨年の世界選手権、エンフタイワン・アリウンボルド(モンゴル)との決勝で見せた伝家の宝刀・小内刈り。ここに高藤の強さの秘訣が凝縮されていた。

高藤自らが解説するには、組んだ瞬間、以下のようなことを感じたという。

「組んだ瞬間に『重心的にカカトにいきやすい選手』ということは思った。最近背負い投げを使ってくる海外の選手が多いけど、押してくるというよりは引きながら戦うタイプなので、後ろ技に弱い。足が引っ掛かりやすい」

昨年の世界選手権の決勝、高藤は小内刈りで勝利を収めた
昨年の世界選手権の決勝、高藤は小内刈りで勝利を収めた

組際で相手の重心を感じ取り、弱点である後ろ技、つまりは高藤でいう『小内刈り』を選択。

相手の重心が後ろに移る完璧なタイミングで技をかけた。

頭では分かっていても、それを世界一を決める一戦で実行してしまうのだから、恐ろしい。

高藤の膨大な引き出しは、これまでの柔道人生、そして今年で10年目を迎える代表経験の中で培われた努力の賜物だ。

ゲームに興じる高藤
ゲームに興じる高藤

傾向と対策。高藤はそれを趣味であるゲームを『攻略』するようだと例える。もちろん世界選手権はゲームではないのだが…。

レジェンド超えの大記録へ

もはや“達人”の域に到達しうる高藤の柔道。

5つ目の世界選手権の金メダルともなれば、レジェンド・山下超えも見えてくる。本当の意味で歴代の達人達の仲間入りとなるが、その口から出てくる言葉は意外にも謙虚だ。

「そこは比較するのは正直難しいと思うんですよ。(山下が現役当時は)2年に1度でしたし。でも男子の最多優勝ということで、盛り上がっていただければ、それはありがたいことです。どうせ僕が辞めた瞬間に、阿部一二三が抜かすんだろうなと。そういう思いです(笑)」

こんな気取らなさも、世界中に多くのファンを持つ理由の1つだ。

一方で、高藤も畳を降りれば3児の父。最近は息子が柔道を始めたことを楽しげに語る。

かつて、「家族全員分の金メダル」という目標を口にしていたことについて聞いた。

――金メダルだとしたら5つ目。これでようやくご家族全員分が揃いますね。
いや、足りないです。犬2匹いるから。パリ五輪獲って、オリンピックも合わせて世界タイトルとしては7個。そこまでが僕の仕事です。
 

世界一のお父さんは、畳を降りてもキレキレだった。

日本女子最強決戦、再び

2023世界柔道選手権の初日、女子48キロ級には日本人2選手が登場する。

現世界女王・角田夏実
現世界女王・角田夏実

世界柔道3連覇を狙う現世界女王・角田夏実(30歳)は得意の巴投げと、“グラップリング”仕込みの関節技で、外国勢に対し19連勝中。52キロ級時代、あと一歩で届かなかった悲願の五輪代表へ着実に歩みを進めている。

一方で昨年の決勝、その角田に辛酸をなめさせられたのが、古賀若菜(21歳)だ。

令和のヤワラ・古賀若菜
令和のヤワラ・古賀若菜

2019年の全日本選抜柔道体重別選手権で、谷亮子(1991年、当時は田村亮子)以来の高校生女王となると、同じ福岡県出身で、見覚えのある一つ結びから“令和のヤワラ”の愛称で呼ばれるようになる。同階級で五輪2連覇、7度の世界一に立っている日本柔道界のレジェンドに近づくことが出来るか。

2021年の世界選手権では、角田が勝利を収めた
2021年の世界選手権では、角田が勝利を収めた

2021年の世界選手権決勝で相まみえた両者だったが、結果は世界女王・角田が世界デビューの古賀に対し合わせ技一本で貫禄勝ち。パリ五輪代表選考もヒートアップする中、再びの日本人対決にも注目だ。

2023世界柔道選手権ドーハ大会
https://www.fujitv.co.jp/sports/judo/world/index.html

S-PARK
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