世界王者の経験を持つ73キロ級代表の橋本壮市(31)は、現在開催中の2023世界柔道選手権カタールで“人生をかけた大一番”に挑む。
橋本は長年、大野将平という大きな壁によって日の目を浴びることが少なかったが、ついに最大のチャンスを迎えた。
「優勝しなかったら大野がいいと言われてしまう」
2017年に世界選手権で金メダルを手にした橋本。彼にとって最大のライバルは同じ階級の73キロ級に君臨する大野将平だ。
大野はリオデジャネイロ五輪・東京五輪で2連覇を達成している。
しかし大野は今年3月、パリ五輪を目指さないことを発表した。

ライバルが第一線を退く決意をしたことを「正直、残念だなって思いました」とこぼす橋本。
しかし、「大野選手がいなくても“73キロ級の日本代表は橋本壮市ひとりでもいける”という結果を出していきたい。ここで優勝しなかったらやっぱり大野将平の方がいいと言われてしまうので、結果にこだわっていきたい」と気を引き締めていた。
橋本は長年、2番手として大野の背中を追っていた。
「リオ五輪の現場で同級生の大野が優勝する姿をみて、そこから夢が目標に変わった瞬間だった」と語るように、橋本は五輪に特別な思いを寄せている。

2017年の世界選手権で金メダルと、世界一の称号を得るも、東京五輪の代表レースで大野に敗れてしまい落選する。
強くとも日本代表として五輪の代表に選ばれるのは一人だけだった。その結果は、一時「引退」を決意したほど橋本にとって受け入れがたい現実だった。
それでもパリ五輪へ向けて3度目の五輪挑戦を決めたのは、周囲の応援があったからだという。
「たくさんの応援があるから今の僕はいる。勝って恩返しをしたい。パリまで一緒に戦いたい」と感謝の言葉を口にした。

自分自身だけでなく、橋本は彼を支えている人の夢も背負っていることを自覚し、彼らのためにもパリまで戦いたいという。
そのパリに向けての前哨戦となる今大会の目標を「優勝以外ありえません。2位も1回戦負けも正直変わらない。1位と2位の差っていうのは僕が一番よく知っている」と意気込む。
大野という絶対王者の高すぎる壁に何度も悔し涙を流してきたからこそ、「優勝以外ありえない」という言葉には一段違う重みがあった。
「パリで優勝」までが橋本のストーリー
去年の世界柔道タシケント大会で、橋本は銀メダルに終わるも、ハプニングに見舞われた。
2回戦の試合中に相手選手と衝突し、頭部から流血。包帯を巻いて試合を続行し、勝利を挙げたが、その後控室に戻り傷を縫合した。
「棄権」が頭をよぎる中、橋本は戦い続け、決勝の畳へのぼった。その橋本の諦めない姿勢や闘志あふれる戦いに観客は息をのんだ。

「頭を切って、結構出血した。決勝にいく時は全身つっちゃっている状態だった。正直ちょっとキツいかなっていうのはありました。けれど、どんな状況でもやらなくちゃいけないので。全てを受け入れてやったんですけど勝てませんでしたね」
そんな橋本も今年で31歳となり、ベテランに残されたチャンスは多くはない。

一度は引退も考えた橋本に今年、夢を叶える大チャンスが巡ってきた。
この世界選手権で優勝を手にすれば、パリ五輪という目標を手繰り寄せることができるのだ。
「東京五輪で落選して(柔道を)やめようと思った。けれど、いろいろな方々のサポートもあってパリ五輪まで目指すと決めたので、しっかり代表に選ばれて、そこ(パリ五輪)で優勝するのが僕のストーリー」

ドラマティックな柔道人生を送ってきた橋本は、この世界選手権で戦い抜き、パリ五輪という切符を手にする“ハッピーエンド”に向かって全てをかけて戦う。
「やっぱりオリンピックなんです。もうオリンピックで優勝しないとダメなので。オリンピックで優勝するために今年の世界選手権は大事なので頑張りたい」
同じく3日目に出場するのが、女子57キロ級代表の舟久保遥香(24)だ。
柔道家兼会社員が世界の舞台でリベンジへ
舟久保は柔道の傍ら、三井住友海上火災保険で正社員としても勤務している。

「舟久保さんの働きぶりは抜群の集中力とミスのない緻密な仕事ぶりでいつも助かっています」「手際がいい、何を依頼しても安心できる」と彼女の仕事ぶりは同僚たちからの評価も高い。
柔道をやっているときとのギャップも感じるようで「普段はかわいらしいのに、畳の上では本当にかっこいい!別人で一流のアスリートは違うな」と同僚は言い、舟久保へ抱く彼らの期待も大きい。

そんな舟久保の武器は、自身考案の寝技に持っていくテクニック。「腹包み」という寝技テクニックを改良した抑え込みは、通称「舟久保固め」と呼ばれ、世界中の選手から真似されるほど注目を集めている。
この必殺技で舟久保はジュニア時代にタイトルを総なめに。
その寝技を駆使して、去年の世界選手権では決勝まで駒を進めた。

しかしその決勝では抑え込みまでもっていくものの、「技あり」まで残り3秒のところで解かれ、立技で敗北する。世界へのデビュー戦は銀メダルに終わった。
普段、感情を表に出さない舟久保だがこのときは珍しく、会場で人目もはばからずに悔し涙を流していた。

当時を振り返り「世界一になる覚悟が足りなかった」と語る舟久保。
それからの舟久保は、寝技に活路を見出すために立技を重点的に取り組んだ。
「寝技は警戒されますし、取りにくい。足技で圧をかけて寝技に持ち込んで取っていくのが私の武器だと思っている」

悔しさをバネにパワーアップした柔道で、舟久保が狙うのは世界一の座だ。
「本当にたくさんの人に支えられているので勝って恩返ししたい」と、カタールの地でリベンジに燃える。
2023世界柔道選手権ドーハ大会
https://www.fujitv.co.jp/sports/judo/world/index.html