カタール・ドーハで行われている世界柔道選手権2023。

「日本人よりも日本人らしいですよ、僕」
激戦区である男子90キロ級代表として5月11日(木)、日の丸を背負って戦うのは、日本人の父とアメリカ人の母を持つ、村尾三四郎(22)だ。
柔道が好きすぎる 生粋の日本人
2000年にニューヨークで生まれ、2歳から日本で育った村尾。

「生粋の日本人に育つように」と三四郎と名付けられ、父親の意向で幼少期は水泳、ラグビー、相撲、体操など様々な競技を経験した。今でもバク宙ができるという村尾だが、それでも“ハマった”のは柔道だったという。
「最終的には柔道のために他の競技をやっていましたね。柔軟性とか空中での感覚や、これは柔道の片足の感覚に似ているんじゃないかって事でやっていました。今思えばいろいろやっておいてよかったですね。柔道が一番好きなので柔道を選びました」

「人生が2回分あるなら他の競技もやってみたい」と笑う村尾は、小学校の卒業文集の冒頭で、未来への誓いを迷いなくつづっていた。
「オリンピックで優勝する」
その夢は色あせるどころか、日に日に彩度を増している。
アメリカ国籍で世界選手権に出場することは考えなかったのかという質問に、村尾はこう答えた。
「日本で育ってきているので、日本人よりも日本人っぽいところを自分は持っているので、無いですね。外国の方がよく言う『日本人は勤勉だ』みたいなことも、柔道に対するノートに毎日書いたりしているので、そういうイメージに当てはまると思います」
村尾は“生粋の日本人”というプライドを持って、畳に上がっているのだ。
世界デビューでの苦い記憶
類いまれな才能を持つ村尾は2021年、21歳で世界選手権に初出場した。
コロナ禍で延期となった東京五輪の直前に開催されたため、五輪代表権を持つ世界のトップ選手が不在の中で行われたこの大会。
ここで優勝すれば次期エースとして、次の五輪に向けても猛アピールできるチャンスだったが、前評判の高さに反して2回戦敗退となった。
村尾は「実力不足だったと実感しています」と振り返る。
その後もなかなか突き抜けるきっかけを得られず、世界選手権代表も他の選手に奪われ、実力に見合った結果を残すことができずにくすぶり続けていた。

そんな村尾が脚光を浴びるきっかけとなった試合が、2022年6月に行われた全日本学生柔道優勝大会だ。
この大会は、団体戦の大学日本一を決める大一番。主将・村尾が率いる東海大学は、同大会6連覇を目指していた。
決勝では、世界柔道選手権2023の100キロ超級代表・斉藤立を擁する国士舘大学と激突。
勝負は両校譲らず、決着は代表戦までもつれ込んだ。

国士舘大・斉藤VS東海大・村尾という体重差約80キロのエース対決は、ゴールデンスコア(延長戦)12分後、疲弊した斉藤の一瞬の隙を突いた村尾が寝技で抑え込み、一本。
大興奮の結末を迎え、東海大学の6連覇を手繰り寄せた。
ここから村尾の快進撃が始まり、同年12月末、世界のトップランカーのみが出場できるワールドマスターズで、並みいる強豪を倒し優勝。世界選手権の代表権を掴み取った。
会心の出来で終えたワールドマスターズを、村尾はこう振り返った。
「あそこまで自分ができると思っていなかった。驚きの方が強かったかもしれないです」
90キロ級で突き抜けるために
世界選手権の男子90キロ級は世界屈指の激戦区で、日本代表選手が一番金メダルから遠ざかっている階級でもある。日本代表選手も毎年のように入れ替わっている。
だからこそ、この階級で絶対的な存在になれるチャンスは大いにある。
今大会の鈴木桂治・男子監督(国士舘大学)も、村尾に期待を寄せる1人だ。
「技術とか寝技にしても立ち技にしてもレベルの高さは持っている。精神的な強さと試合運び、そのあたりの経験値が上がってくれば進化した村尾になる。突き抜ければ、オリンピックに大きく前進すると思います」

少年時代から憧れ続けている五輪まで、あと少しの所まで来た。この世界選手権で優勝すれば、夢のパリ五輪に大きく近づく。
村尾は、大会への意気込みをこう語った。
「オリンピック前年ということもありますし、すごくレベルが高い試合になると思うので、難しさもあると思います。でも勝ち抜く自信はあります。去年の試合を通じて世界で勝つ実力は持っていると確信しました。日本人として日本の国旗を背負って優勝したい」
真のエースとなる大一番、“令和の三四郎”に期待だ。
弱点階級の大エースに
2004年アテネ五輪と2008年北京五輪で連覇を果たした上野雅恵。
2016年リオデジャネイロ五輪優勝の田知本遥。そして、2021年東京五輪で女王となった新井千鶴。
柔道女子日本代表が五輪で最も金メダルを獲得してきた“栄光の階級”が、女子70キロ級だ。
しかし新井の引退により、得意階級は一転エース不在の弱点階級へと転落の危機に追い込まれていた。

そんな中、希望の光となったのが新添左季(26)だ。
2022年、デビュー戦となった世界選手権タシケントでは銅メダルを獲得。
背筋の通った美しい姿勢から、キレのある立技を連発し、世界の強豪を次々と倒していった。しかし、目標としていた金メダルには届かなかった新添。

本人は淡々と振り返る。
「嬉しい結果ではないんですけど、最低限の結果は出せたかなと思っています」
その後、2022年12月に行われた国際大会・グランドスラム東京で優勝。
さらに今年4月にトルコで行われたグランドスラム アンタルヤでは、現・世界女王のバルバラ・マティッチ(クロアチア)を撃破して優勝を果たす。
現在、無双状態と言っても過言ではない快進撃を続けている新添だが、畳の上の姿からは想像もできない一面があるという。
無双のエースには意外な一面も
「ネガティブなんです。試合前、ずっと負けたらどうしようと考えています。頑張ってネガティブを消そうとはしています。あまり自分にも自信とか持てないですし、どうやったらポジティブになれるか逆にわからないです(笑)」

それでも、試合が始まるとスイッチが入り、勝負師の目になる。
「新井千鶴さん、大野陽子さんが引退して、田中志歩選手も怪我してしまって、戸惑いとかもありますけど、選んでもらったからには結果を残して、70キロ級はまだ大丈夫だと思ってもらえるように頑張らないといけないと思っています」
伝統の70キロ級を任された新添の責任は重大だ。しかしそれ以上に、世界でのさらなる躍進を自らも楽しみにしている。
2023世界柔道選手権ドーハ大会
https://www.fujitv.co.jp/sports/judo/world/index.html