2021年の東京五輪女子78キロ級の金メダリスト・濱田尚里(32)。

初戦から決勝まで寝技で全試合オール一本勝ちという戦いは、本戦4分間で行われる柔道において、全4試合トータル7分42秒という圧倒的な速さでメダルを手にし、この階級に2004年のアテネ五輪以来の金メダルを日本にもたらした。

その決まり手はすべて「寝技」によるものだった。
東京五輪以来の世界の頂点を目指す“寝技の女王”が5月12日(金)、2023世界柔道選手権カタールの畳に上がる。
狭まる“濵田包囲網”
世界に恐れられる濵田の寝技は、警戒され、対策を講じられる対象でもある。
2022年10月、ウズベキスタン・タシケントで行われた世界選手権では、準々決勝で五輪3大会連続銅メダルのマイラ・アギアール(ブラジル)に足技(内股返し)で一本負け。
さらに、敗者復活から3位決定戦に進むも、エリザベータ・リトビネンコ(ウクライナ)に再び足技で敗れ、まさかの5位に終わった。

その後も、濵田の寝技を研究してきた海外勢に後れを取り、東京五輪以降に出場した4つの国際大会ではいずれも優勝を逃してきた。
五輪女王でも簡単には優勝できない同階級のレベルの高さは、濵田自身が一番理解している。
「いつも勝ち上がってくるメンバーだけではなくて、他にもまだたくさん強い選手がいる階級だと思っているので、力をつけないと勝てない階級だと思います」
寝技の女王が強化した「新たな武器」
寝技では絶対的な強さを誇る濵田だが、「自身の柔道はまだまだ未完成」と語る。

「足りないことだらけです。本当にもう、やることいっぱいですね。寝技につなげるためにも崩すところからだと思って、いま『足技』を練習しています」
再び世界の頂点を狙う濵田が選んだ道は、得意の寝技ではなく、足技の強化だった。
狭まる“濵田包囲網”を突破する新たな武器となるか。
この世界選手権で真価が問われる。

「オリンピック前年の世界選手権なので、しっかり優勝して来年のオリンピックにつなげていきたい。 オリンピックに出たら優勝したいと思います」
パリ五輪出場、そして同階級初の五輪連覇へ。“寝技の女王”がようやくギアを入れる。
“首の皮一枚”の男
同日行われる男子100キロ級。
日本勢は2017年にブダペストで行われた世界選手権でウルフ・アロンが金メダルを獲得して以来、この階級での金メダルはない。

「いやもう崖っぷち通り越しているんじゃないですかね。首の皮一枚ぐらい」
長年、日本の重量級をけん引してきた男子日本代表・鈴木桂治監督がこう言って奮起を促すのは、国士舘大学で自ら指導した愛弟子・飯田健太郎(25)だ。

2017年、飯田は高校3年生で国際大会の花形・グランドスラムパリに出場し、地元フランスのオリンピック銅メダリストを鮮やかな内股で破り優勝するという鮮烈なデビューを飾った。
その柔道センスから、日本重量級の看板を背負う存在となることを期待されるも、2021年から2年連続で出場した世界選手権ではいずれも予選敗退。
結果を残すことができなかった。

真価を発揮しきれていない飯田は、「(鈴木監督に)多分信用されてないと思うんですけど。追い詰められてるって感じですかね」と歯がゆそうに語る。
そんな中、この階級の東京五輪金メダリスト、ウルフ・アロンが4月に行われた全日本選抜柔道体重別選手権を制し、パリ五輪代表選考レースで飯田を猛追。
まさに“首の皮一枚”の状態まで追い込まれた。

この世界選手権の結果が、パリ五輪への道を大きく左右する。飯田は、今大会の結果を今後の“起爆剤”としたいと執念を燃やす。
「ここで一発、世界選手権で自分のこれからの柔道人生の起爆剤となるような、執念を持った戦いを見せられるように、優勝目指して頑張りたいと思います」
日本柔道界期待の星がついに覚醒を迎えるか、男子の戦いも注目だ。
2023世界柔道選手権ドーハ大会
https://www.fujitv.co.jp/sports/judo/world/index.html