日本が誇る“世界最強の兄妹”、阿部一二三(25)と詩(22)。
2年前、この兄妹が東京五輪で五輪史上初の“兄妹同日金メダル”を達成したのは記憶に新しい。
阿部兄妹はこれまで、世界一を争う舞台で3度の同日優勝を果たしてきた。
5月8日(月)にカタール・ドーハで行われる世界柔道選手権2023では、4度目の同日優勝という快挙を目指して畳に上がる。
本来は貴重なものである金メダルが、当たり前のようによく似合う阿部兄妹。
そんな2人の関係性には、最近大きな変化があったという。
一番のライバルは妹
2023年春、妹・詩は日本体育大学を卒業。社会人となり、兄・一二三と同じ「パーク24」に所属する道を選んだ。

兄妹で同じチームになるのは、日体大時代に一二三が4年生、歌が1年生だった2019年以来のことだ。
詩は、新しいスタートに際してこう語る。

「もう学生ではなくなったということで、しっかりと責任と覚悟を持ちながら柔道に取り組むようにはなりました」
再び妹とチームメイトになったことについて、一二三は“縁”という言葉を使った。
「これも何かの縁というか、運命だと思うので。一番良いライバルであって、切磋琢磨している部分もありますよね」

普段から仲の良く、柔道家としても互いに尊敬し合い、高め合ってきた2人だが、先に頭角を現したのは3歳上の兄・一二三だ。
2014年、高校2年生でシニアデビューを果たすと、講道館杯に出場し、男子史上最年少となる17歳2カ月で優勝。
さらにその年の国際大会・グランドスラム東京でも史上最年少で初優勝し、日本柔道界期待の星となった。

その3年後の2017年、当時16歳の詩は、ドイツで行われた国際大会グランプリ・デュッセルドルフに出場し、国際大会初出場にして初優勝を飾る。
“最強のお兄ちゃん”を見本に磨き上げた得意技・袖釣り込み腰を武器に、兄の背中を追いかけてきた詩。そのセンスは一二三が一番よく理解している。
2018年6月のインタビューで、一二三は詩の強さについて次のように語っていた。
「妹のほうが強いんじゃないですかね。昔から妹のほうが強くなるってずっと言われてきて」
それを聞いた詩は、「勝てます(笑)」と自信を見せた。
兄妹同日優勝という宿命
初めて2人が同時に世界の頂点に立ったのは2018年、アゼルバイジャン共和国で行われた世界選手権でのことだった。
一二三は同大会で連覇を達成。詩は世界選手権初出場でありながらも、初優勝を果たす。
この世界一決定戦での“兄妹同日金メダル”は、柔道史上初の快挙だった。
そして2021年、東京五輪でも五輪史上初の兄妹同日金メダルを獲得。さらに翌年の世界選手権でも3度目となる兄妹同日金メダルを獲得した。

世界の頂点で肩を並べるようになるとともに、2人の関係性は変化してきたという。
詩は言う。
「兄の背中は日々というか、追いかけながら走っているので、でも今は横並びというか、一緒に走っていっているという感覚でもあるので。お互い切磋琢磨しながら相乗効果というものがありながら、一緒に走り抜けている」

一二三も同じような思いを抱いている。
「2人が、一人一人がやるべきことをすれば、兄妹ダブルチャンピオンにつながると思うんで、お互いやることをやって、そこに結び付けようという感じです」
追われ、追いかける存在から、いつの間にか一緒に走る存在になっていた。
妹が語る兄・一二三が変わった瞬間
切磋琢磨しながら走り続ける2人だが、時に2人で戦う事がプレッシャーになることもあった。
3度目の共闘となった2019年の世界選手権でのこと。まず、詩が52キロ級で連覇を達成。
続いて、一二三が3連覇をかけて66キロ級決勝の畳に上がった。その前に立ちはだかったのは 同階級の長年のライバル・丸山城志郎(29)だった。この大会は東京五輪代表の座を占う重要な一戦で、一二三は痛恨の敗北を喫した。
当時を「プレッシャーはありました。いやあー、きついっすよ」と振り返っていた一二三。

2人の争いは、2020年12月13日に行われた、異例の“代表決定ワンマッチ”へともつれ込んだ。
そして一二三は、柔道史に残るといわれた24分間に及ぶ死闘を制し、代表の座を手にした。
詩はこの試合を通して兄に変化があったとみている。

「『あの決定戦』の後から変わったなというか。ハッキリとは言えないかもしれないですけど、何か強くなったなって。(五輪でも)『緊張してない』と言ってましたし。それを聞いたときに、本当にすごい試合だったんだなと思いましたね」
共に歩み続けてきた妹が、兄に感じた言葉にできない“変化”は、その後の丸山との戦績にも現れ、2019年から直接対決で4連勝を記録している。
今回の世界柔道選手権は、2024年のパリ五輪代表の代表を選考するうえで重要な判断材料となる。結果次第で、早ければ6月にも代表が内定する可能性がある大会だ。
連覇を果たし、パリ五輪代表へ大きく近づきたい一二三と、それに“待った”をかけたいライバル・丸山城志郎。

その丸山も、話を聞くと“変化”を見せていた。
「やっぱり勝つ奴、結果を残す奴を代表に使うので。今までの自分の柔道スタイルを軸に、プラスαで何か付け加える。簡単に言ってみれば“小細工”。小細工もちゃんとしたスキルなので、勝つためにそういうこともやっていかないといけない」
真っ向勝負をモットーとする丸山が、なりふり構わず勝利への執念を見せた。
阿部兄妹が4度目の“兄弟同日金メダル”となるか。それとも“世紀のワンマッチ”再戦へ、丸山が望みをつなぐのか。
5月8日の世界柔道選手権で、全てが決まる。
2023世界柔道選手権ドーハ大会
https://www.fujitv.co.jp/sports/judo/world/index.html