2022年12月、福井・越前市の工場に世界的大企業の経営者が訪れた。その人物はティム・クックCEO。iPhoneやiPadなど、革新的な製品を開発し続けているアメリカ・アップル社の最高経営責任者だ。
時価総額200兆円を超える大企業のトップが、なぜ福井の中小企業を訪れたのか? その背景には、両者の国境を超えたモノづくりへの情熱があった。

約1000社の中から選ばれた「井上リボン工業」

越前市にある「井上リボン工業」。創業70年で、衣類のほつれを防ぐ固い布製のテープといった細幅(ほそはば)織物などの製造を手掛けている。従業員は約150人。この会社にティム・クック氏が訪れた。 

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井上博之社長: 
アップル社の社員でも、会ったことがないという人もいるのに。わざわざこんな田舎の企業まで足を運んでいただけるということで、嘘みたいな話で驚いた 

来日したクック氏は岸田首相と面会したほか、アップル製品に使われる部品を製造する企業やクリエイターなどを訪問。アップル社の製品に関わる国内企業は約1,000社あるといわれていて、クック氏はその最後の訪問先に井上リボン工業を選んだ。 

井上博之社長: 
玄関でお出迎えしたが、気さくに手を挙げて「ハーイ」という感じで入ってこられた。従業員が握手を求めれば、気さくに握手してくれた。非常に熱心に見ていただいて、質問もしていただいたし、興味深く見ていただいているというのも分かった

アップル社の主力製品の1つに「Apple Watch」がある。電話やメールなど様々な機能を使用できる腕時計型のデバイスで、2015年の発売以降、世界中で愛用されている。 

このApple Watchを腕に装着するための「純正バンド」をつくっているのが、井上リボン工業だ。ラインナップは現在3種類ある。 

2022年秋に加わった「アルパインループ」は、かまぼこ型のループに金具のフックを差し込むことでサイズを調整するという独特のデザインだ。

ベースとなるバンドとループを一緒に織り込むことのできる高い技術が、これまでにない革新的な製品を可能にした。 

驚かされたアップル社の“職人魂”

アップル社との関係が始まったのは約10年前だった。主力の衣類分野以外での開拓を進めていたこの会社に、Apple Watchの発売を控えたアップル社が声を掛けた。開発を進める中で井上社長は、アップル社の「モノづくり」に対する情熱(クラフトマンシップ)に驚かされたと振り返る。

井上博之社長: 
我々と同じレベルで技術的な話もできる方たちがそろっているので、同じ会社のメンバーのように一緒に課題を考え、開発・生産に関わっていただいた。他の会社ではそこまでのことはないので 

最初は求められる高い要求に戸惑いながらも、全社を挙げて開発に取り組むこと約2年。ようやく第1号の製品化にこぎつけ、現在はアップル社専用の工場を持つまでになった。 

井上博之社長: 
細幅織物は非常にニッチな業界だが、細幅にしかできないことも大いにある。先人がこだわって試作や開発を続けてきたことで今がある。アップル社にそういう部分を感じ取ってもらえたのかもしれない 

クック氏は訪問後、ツイッターに「伝統的な職人技と最先端の製造技術を組み合わせて、見事なバンドを織り上げています」と投稿した。 

世界最大規模の企業と、福井の中小企業。会社の規模には大きな違いがあるが、良質な製品を提供したいという職人魂は同じだ。両社のコラボレーションは、世界を一変させる革新的な製品を生み出し続けている。 

(福井テレビ)

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