天皇皇后両陛下は、1月18日、皇居・宮殿、松の間で行われた新春恒例の宮中行事「歌会始の儀」に臨まれました。
年の始めに共通のお題で和歌を詠み披露する「歌会始」。今年のお題は「友」です。
今年も、マスクの着用や事前の検温など感染防止対策を取りながらの開催となりました。

歌会始の儀
歌会始の儀
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「読師(どくじ)」の進行で行われる「歌会始の儀」。歌の披露は、「講師(こうじ)」と呼ばれる役が歌を1度通して詠みあげ、その後「発声」が始めの句を独唱し、続いて4人の「講頌(こうしょう)」が加わり独特の節をつけて詠みあげていきます。

歌会始の儀
歌会始の儀

ご懇談で明かされた天皇陛下の「あだ名」

明治7(1874)年以降、広く一般の人からも歌を募っている「歌会始」。今年は、約1万5千首の応募があり、その中から選ばれた10首が古式ゆかしい節回しで詠みあげられました。

入選者の最年少は、山梨県北杜市の小宮山碧生さん(14)。北杜市立甲陵中学校2年生です。

「友の呼ぶ  僕のあだ名は  わるくない 他のやつには  呼ばせないけど」

あだ名をつけてくれたクラスメートとこれからも特別な友情が続いてほしいと願い詠んだ歌です。「歌会始」の後、両陛下と懇談した小宮山さん。

山梨県 北杜市立甲陵中学校2年生 小宮山碧生さん
山梨県 北杜市立甲陵中学校2年生 小宮山碧生さん

小宮山碧生さん:
(両陛下から)「その友達とこれからも仲良く」と言ってくれました。あだ名を付けられるとうれしいということについて少し話をして、天皇陛下のあだ名を教えてもらったりしました。天皇陛下が(中学生)当時盆栽にはまっていたということで「その趣味、おじいちゃんじゃん」と言われたらしく、「じい」というあだ名を付けられたそうです。天皇陛下もあだ名があるんだなと親近感がわきました。

皇族代表には 三笠宮家の彬子さまの歌が…

一般の入選作に続き、皇族代表の歌が詠みあげられました。

三笠宮家の彬子さまは、友人から悩みを相談された夜のことを歌にされました。

「器から  こぼれてしまつた  言の葉を 静かにつむぐ  友の横顔」

背負っているものの重さと辛さを打ち明ける友人の横顔に「少しでもその荷を軽くする手助けができたらいいな」と思われたそうです。

平成25(2013)年3月 学習院女子高等科を卒業された佳子さま
平成25(2013)年3月 学習院女子高等科を卒業された佳子さま

秋篠宮家の次女・佳子さまは高校の卒業写真について詠まれました。

「卒業式に 友と撮りたる 記念写真 裏に書かれし 想ひは今に」

友人2人と撮られた記念写真。その裏に書かれた友人の思いが、今でも3人の中で続いていると感じられたといいます。

1月2日 新年一般参賀に臨まれた愛子さま
1月2日 新年一般参賀に臨まれた愛子さま

学業を優先し今回も出席を控えた、両陛下の長女・愛子さまが寄せられた歌です。

「もみぢ葉の 散り敷く道を 歩みきて 浮かぶ横顔 友との家路」

この歌について、長年「歌会始」の選者を務める、歌人の永田和宏さんに解説してもらいました。

「歌会始」選者の歌人・永田和宏さん
「歌会始」選者の歌人・永田和宏さん

永田和宏さん:
若々しい学生としての歌が、自然に出てきた歌になっていて、とても良かったと思いますね。今、こうして一人で道を歩いていると、友達と一緒に学校から帰る帰り道のことを思い出す。その友達の横顔が思い浮かぶという。それだけしか言ってないんですけど、でも、その中には、やっぱりこういうコロナ禍という社会情勢が否応なく、その裏に反映されているという歌になっていて。ご本人は恐らくそういうことも意識しておられないと思いますが、それが出てくるというのは、歌の力でもあると思いますね。

陛下と友に感謝された 皇后さまの歌

皇后さまの歌です。

「皇室に  君と歩みし  半生を 見守りくれし  親しき友ら」

去年12月9日に59歳の誕生日を迎えられた皇后さま。平成5(1993)年6月に結婚して皇室に入ってから30年近くが過ぎ、人生の約半分になることを感慨深く思い、これまで見守ってくれた友人たちへの感謝の気持ちを詠まれたということです。

平成30(2018)年6月 結婚25周年「銀婚式」を迎えられた両陛下
平成30(2018)年6月 結婚25周年「銀婚式」を迎えられた両陛下

永田和宏さん:
ちょうど人生の半分を皇室と共に歩まれてきた記念すべき年にそのことをお歌にされて、その半分の時間は君と一緒の歩みだったということがあって、天皇陛下への思いが非常に強く感じられる。一方で、親しい友達が遠くから見守ってくれているその視線があったからこそ自分はこの半生を歩んできたんだという。そこへの感謝の思い。この2つが、この1首の中に重なっていて、ああ、素晴らしい歌になったと私は思っていますね。

自らも楽器を演奏されるからこそ詠まれた 陛下の歌

天皇陛下は、おととし10月、和歌山県での国民文化祭の際、吹奏楽部の高校生とオンラインで交流したときに感じたうれしさを詠まれました。

「コロナ禍に  友と楽器を  奏でうる 喜び語る 生徒らの笑み」

高校生たちが、様々な制約がある中でも創意工夫をこらしながら楽器の演奏を続け、コロナ禍でも友達と一緒に演奏できる喜びを語った姿をうれしく思われた天皇陛下。
コロナ収束を願い詠まれたこの歌を、永田さんは、陛下自身がビオラなどを演奏されることを踏まえ、解説しました。

           令和3(2021)年10月 国民文化祭「吹奏楽の祭典」で両陛下と交流した                     和歌山県立青林高校吹奏楽部の生徒
           令和3(2021)年10月 国民文化祭「吹奏楽の祭典」で両陛下と交流した                     和歌山県立青林高校吹奏楽部の生徒

永田和宏さん:
こういう困難な状況で、やっぱり友達と一緒に楽器演奏をすることができる。本当にささやかな喜びなんだけど、そういう喜びを自ら知っておられるから、子どもたちの喜びが自分の喜びとして感じられるという、そういうことだと思いますね。
 

両陛下や皇族方、それぞれの思いが込められた歌が披露された「歌会始の儀」。
来年のお題は、「和」に決まりました。

(「皇室ご一家」1月29日放送)