埼玉県川口市のバーで、6年前、従業員の男性を殺害した罪にとわれている、元暴力団組員の男に対して、さいたま地裁は懲役20年の判決を言い渡した。男にとって、被害者は、娘の”元カレ”。法廷で語られたのは、壮絶な暴行シーンだった。
”遺体なき殺人” 被告は否認
特定抗争指定暴力団・山口組系元組員の島田一治被告(55)は、2016年3月、仲間のA男とともに、川口市西川口のバーで、従業員の伊藤竜成さん(当時24)に暴行を加え、殺害した罪に問われている。
この記事の画像(5枚)初公判で、島田被告は「行き過ぎた暴行は認めるが殺人は行っておりません。」と起訴内容を否認。弁護側も、「殺害現場にいた他の仲間らの証言が食い違っていて、行為の認定は難しく、不十分だ」と主張した。なお、共犯者とされるA男は、去年10月、勾留中に自殺している。
「殺人」罪の成否が問われた今回の事件だが、被害者の伊藤さんの遺体は、見つかっていない。この”遺体なき殺人事件”では、殺害行為自体の立証が争点となった。
娘の”元カレ”に激怒した男
検察によると、伊藤さんは、島田被告の娘の元交際相手。伊藤さんが交際関係が終了した後も、娘名義の携帯電話を使い続けていたことに、島田被告は腹を立て、犯行に及んだとされている。島田被告は、伊藤さんが働いていたバーで、”携帯電話”のことを問いただした。
そして、トイレに伊藤さんを連れ込み、顔を殴るなどしたという。さらに暴力はエスカレートする。伊藤さんが「やめてください」と懇願する中、下半身をライターであぶったり、髪にアルコールをかけ、A男がライターで火をつけるなどしたとのこと。
そして、全裸のままトイレの便器にロープで縛り付け、睡眠薬を飲ませたとされる。目撃者の証言などによれば、この段階で、島田被告とA男が、”この後”のことについて話し合いを始めたとのこと。
口封じのため殺害 遺体はバラバラに
結局、2人は、長時間にわたる暴行の被害を、警察に申告される恐れがあると考え、口封じのため、伊藤さんを殺害することを決意したという。
伊藤さんはトイレから連れ出された後、島田被告に、首をロープで絞められ、失禁するに至ったそうだ。動かなくなった伊藤さんは、なおも首を絞められ、踏みつけられるなどした末に、命を落とした。その間、A男は、念仏を唱えながら、伊藤さんの体を押さえていたという。
その後、島田被告は、他の仲間とともに、遺体を運び出した。行き先は、自身が経営する冷凍マグロ卸売会社が使用する超低温冷凍庫だった。凍らされた遺体は、後日、マグロ用の切断機を使って、バラバラに解体され、焼却施設で処分されたという。埼玉県警は捜査を尽くしたが、遺体の一部なども見つからなかったとされる。
目撃証言などから”殺人”認定
殺人事件にとって、遺体は、最も重要な”証拠”とされる。過去にも、「遺体なき殺人」は起きている。警察当局の懸命な捜査により、立件にこぎ着けたケースは少なくない。
裁判員にとって、難しい審理だったと想像されるが、今月20日の判決で、さいたま地裁は「現場にいた目撃者の証言は暴行の詳細、殺害に至るまでの経緯など具体的で一致していて、被告の殺害行為の実行が認められる」と判断。殺人罪の成立を認めた。
その上で、「暴行後、いったん話し合う場もあり、殺害しない判断もできたが、口封じのため殺害を選択している。人命の重さを顧みない、反社会的な意志決定自体が厳しい非難に値する」として、懲役20年の判決を言い渡した。(トップ画像はイメージ)
(フジテレビ社会部・埼玉県警担当 大久保裕)