自民党総裁選もいよいよ終盤に入る。河野太郎(58)、岸田文雄(64)、高市早苗(60)、野田聖子(61)=届け出順=の4人の候補が連日メディアなど様々な場で政策議論を行っている。4人の候補の経済政策と成長戦略をマネックス証券チーフ・ストラテジスト広木隆さんに聞いた。(聞き手:フジテレビ解説委員鈴木款)

マネックス証券広木さん「河野さんの年金改革については失点だったのでは」
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「河野さんの年金改革は失点だったのでは・・」

――まず年金改革の議論が降ってわいたように始まりました。火付け役は河野さんで、「年金の最低保障」をぶち上げましたが、他の3人は「消費税引き上げどうする」「年金不安を煽る」と真っ向から反対しています。

広木氏:
河野さんはこれまでの世論調査で1番人気だったのですが、年金改革についてはちょっと失点だったんじゃないかなと思います。

岸田さんが切り返していましたが、“年金を税財源で”というのはそもそも民主党が言い始めたことですよね。しかも民主党は政権を取ったものの実現できず、自民党は反対していた。

なぜこのタイミングで河野さんが言い始めたのかわかりませんが、消費税を財源にするならやはり具体的な数字をセットにして議論しないといけません。

――高市さんは「まともに消費税でやろうと思ったら12.3兆円になる」と主張していますが、河野さんは具体的に消費税を何%引き上げが必要なのか明確にしていませんね。

広木氏:
確か民主党の時は、7~8%引き上げないと難しいという話だったと思います。やはり具体的な数字を示さずに「年金が危ない」と言っても、誰も議論についてこられないですね。

また河野さんは年金改革の根拠を低所得者、低年金者のためと語っています。しかし社会全体で見るとこの層は比率が非常に低く2019年度で62万人と言われていて、人口の0.5%です。政策の優先順位から言えば、例えば子どもの貧困は7人に1人ですね。

――年金改革の議論は総裁選という短期決戦でやるのは厳しいですね。そもそもわかりづらいし、国会を開いてもう一度議論すればいいと思います。

広木氏:
年金を税財源でやるとなったら、必ず消費税引き上げの議論となります。今回河野さんは富裕層には基礎年金を支払わないともおっしゃっていますが、それはほんのわずかな話です。もう少し詰めてからするべき話だったかなと思いますね。

「岸田さんの新自由主義否定は世界の潮流だが・・」

――次は経済政策の話ですが、まず岸田さんは所得倍増計画と新自由主義の否定ですね。

広木氏:
新自由主義の否定は世界の潮流です。例えばアメリカは、民主党がトリプルブルーで政権を取りバイデン大統領は格差是正を掲げています。あの中国でさえ国内の格差を是正するため、企業活動への規制や不動産の締め付けを行っています。菅政権は当初自助を強く打ち出したのですが、結局コロナで公助を求められる状況になりました。

岸田さんの所得倍増計画は新自由主義の否定とセットになっていますが、新自由主義の前提は自由競争と規制改革です。規制を改革しなければ経済は活性化しないので、新自由主義の否定みたいなことは言わないほうがいいと思うのですが。

――河野さんは労働分配率を高めた企業の法人税を減税する政策を掲げていますが、この部分は岸田さんと似ていますね。

広木氏:
ただ岸田さんは所得再分配を富める者から貧しい者へと個人間で行うと言っているのに対して、河野さんは企業から個人に分配しろと言っています。

安倍政権では賃上げに積極的に介入しましたが、結局すぐ萎んでしまいました。河野さんは労働分配率を引き上げた企業には減税すると言っていますが、いま企業は内部留保が豊富にあるので、法人税が減税されても労働分配率を高めるインセンティブがどこまで働くか疑問ですね。

「株式市場は高市さん大歓迎ですが諸刃の剣」

――一方で高市さんは“サナエノミクス”を掲げて、アベノミクスの継承を前面に出しています。

広木氏:
岸田さんも河野さんも財政出動と言っても財政再建が少し頭の中にありますが、高市さんの場合は考え方がMMT(※)に近いですね。物価上昇率が2%に達しないまではプライマリーバランスを凍結と言っていますが、2%に到達するなんて今後20年かかっても無理ですから、財政再建を放棄するようなものです。積極財政という意味ではアベノミクス以上かもしれません。

(※)財政赤字でも国はインフレが起きない範囲で支出を行うべきという理論

――その意味では株式市場は高市さんが“買い”ですかね。

広木氏:
株式市場的にはあれだけ積極的な財政政策がもし実現すれば、高市さん大歓迎です。ただ諸刃の剣でもあって、外交・軍事面で強硬路線になると中国など地政学的なリスクが増える。株式市場では安倍前首相が靖国神社に参拝した際、動揺して株が売られた場面がありました。

「女性首相が誕生すれば世界の見る目が変わる」

――野田さんはグリーンリカバリーや“こどもまんなか”を政策に掲げていますね。グリーンリカバリーはポストコロナを見据えて欧米ではすでに始まっていますが。

広木氏:
子どもの問題を何とかしないといけないというのはその通りですね。ただそれが成長戦略なのかというと、ちょっと違う感じがします。グリーンリカバリーは、実は菅政権が掲げたカーボンニュートラルと同じですね。これはいま世界的な潮流になっているので、この政策にいくのは当然だと思います。野田さんは地熱発電についても言っていますね。

――広木さん的に何か注目の経済政策はありますか。

広木氏:
コロナの中で日本は世界から周回遅れのところがたくさん明らかになりました。特に遅れているのはジェンダー格差です。女性の地位について日本は先進国の中でも最低ではないでしょうか。ですからアメリカでさえまだ女性大統領が生まれていない中、女性の首相が誕生したとなれば、改革が進んだ、または改革を進めるというメッセージを世界に送ることができると思うんです。世界の日本を見る目が変わると思いますね。

――確かに世界へ日本が変わったとのアピールになりますね。ありがとうございました。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】