“叶わぬ恋”をしている犬がTwitterに投稿され、話題になっている。

兄犬が、散歩道の途中に置いてあるセトモノの犬に恋してしまって困ってる。
彼の用事が終わるまで、毎回ここで蚊に刺されながら待機しなくてはならない我々だった。

シンガーソングライターの七尾旅人(@tavito_net)さんが、このコメントと共に投稿したのは、共に暮らす犬2匹(14歳の雄・ミニチュアシュナウザーの兄犬くん、10歳の雌・ミックスの妹犬ちゃん)との散歩の様子を収めた、40秒ほどの動画。

七尾さんと兄犬くん(左)、妹犬ちゃん
七尾さんと兄犬くん(左)、妹犬ちゃん
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そこに映っているのは、草むらをじっと見つめる兄犬くんの姿。視線の先には1匹の犬がいるがよく見ると…これは犬の置物ではないか!

草むらをじっと見つめる兄犬くん
草むらをじっと見つめる兄犬くん

兄犬くんはそれに気づかないのか、熱いまなざしを送って鼻を近づけ、尻尾をフリフリ。夢中になっているように見える。散歩は妹犬ちゃんも一緒だが、こちらは犬の置物を見ても特に反応を示しておらず、どこ吹く風といった感じだ。

置物に夢中な兄犬くん、素知らぬ様子の妹犬ちゃん
置物に夢中な兄犬くん、素知らぬ様子の妹犬ちゃん

Twitterユーザーは「和みます」「めちゃくちゃかわいいけど、ちょっと切ない。」などと、兄犬くんの行動に癒されつつ、叶わぬ恋に切なさも感じていた。兄犬くんは置物のどんなところに興味を示したのだろう。飼い主はなぜ「恋をしている」と分かったのだろうか。

うれしそうに鼻をくっつけたり、尻尾を振るようになった

七尾旅人さんに話を聞くと、兄犬くんの状況と叶わぬ恋の影響が分かった。

――兄犬くんと妹犬ちゃんはどんなワンちゃん?

2匹とも保護犬で血のつながりはありません。兄犬と妹犬は通称で本名は非公開です。2匹はとても仲がよく実の兄妹のようなので、ネットではそう呼んでいます。性格は兄犬が明るく社交的でお調子者、妹犬は内向的で恥ずかしがり屋ですが身体能力が高くて、海に潜って魚を獲ってきたりもしますね。

性格は違うが2匹は仲良し
性格は違うが2匹は仲良し

――兄犬くんが“犬の置物”に興味を示したのはいつ?

今年の夏ごろ、近所の畑に急に置かれました。散歩で通ったところ兄犬が気に入り、うれしそうに鼻をくっつけたり、尻尾を振るようになりました。他の作り物の犬には反応したことはありません。セトモノですが、可愛らしくて“美少女犬”のような感じなので、気になってしまったのかもしれませんね。

確かに“美少女犬”。左下に見えるのは兄犬くん
確かに“美少女犬”。左下に見えるのは兄犬くん

――どんな様子から「恋をしている」と思った?

長年一緒に暮らしていると、犬の気持ちがなんとなくわかってきます。壁や電信柱に興味を持つのとは全く違って、はしゃいだりうれしそうにしているのです。ドッグランやペットホテルでお気に入りの友達を見つけたときのような感じで、表情も笑顔を浮かべているように見えました。

兄犬くんは“血管のがん”で闘病中

――恋をして兄犬くんには変化があった?

実は兄犬は「血管肉腫」という、血管のがんの闘病中です。2020年10月に脾臓を全摘出し、翌月には「1~2カ月で亡くなるかもしれない」と余命宣告を受けました。この病気は進行が速く完治も難しいです。既に死んでいてもおかしくありません。

現在も病院で定期的に検査をしている
現在も病院で定期的に検査をしている

それが11カ月目に入った今も、元気に生きてくれています。実際の気持ちは兄犬にしか分かりませんが、セトモノ犬にもつよい好奇心と愛着を持つこのポジティブな性格が、彼の命を延ばしてくれているように感じています
 

――兄犬くんは散歩でいつも置物に反応するの?

散歩は1日2回行きます。海へ出るルートと、山を登るルートがあって、海のルートではセトモノ犬の場所を通るのですが、その時はいつも止まりますね。ただ最近、伸びた草で置物が隠れ、兄犬が気づかないこともありました。

海では砂浜の近くを歩くことも
海では砂浜の近くを歩くことも

――置物の前ではどのくらい過ごすの?

待機時間は結構あります。5分くらいでしょうか。炎天下の日や雨の日は「長いな…」と思うこともありますが、兄犬が余命宣告を受けてからは悔いが残らないよう、彼が行きたがる場所、歩きたい道を選ばせて歩くようにしています。妹犬もそれに付き合ってくれます。

兄犬くんが行きたい場所や道を歩くようにしている
兄犬くんが行きたい場所や道を歩くようにしている

――妹犬ちゃんは置物に興味を示さないの?

妹犬は興味ゼロですね。ただ、妹犬は忠実で家族思いなので、じっと待っていてくれます。兄犬のがんのCT検査で土地勘がない病院を訪れた時、妹犬と1キロほど離れたカフェで検査が終わるのを待ったことがあるのですが、そのあいだ妹犬はずっと心配そうな声を出し、迎えに行く時刻には、GPSもなしに迷うことなく病院の玄関まで連れて行ってくれました。ほんとうの兄妹以上の絆を感じて、思わず涙ぐみましたね。

血のつながりはなくても、兄妹のような絆がある
血のつながりはなくても、兄妹のような絆がある

彼が行きたい場所を一緒に歩き、1日1日を大切にしたい

――兄犬くんの恋をどう見守っていきたい?

犬の寿命は十数年と言われますが、その分人間よりも濃密な時間を生きていると思うのです。彼が行きたい場所を一緒に歩き、1日1日を大切にして思い出を作っていきたいと思います。

1日1日を大切にしていきたいという
1日1日を大切にしていきたいという

叶わぬ恋だとしても、それが生きる活力になっているのかもしれない。兄犬くんが置物の前でうれしそうに立ち止まる日々が、これからも長く続いていくことを祈りたい。

(画像提供:七尾旅人さん)

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プライムオンライン編集部
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