漁獲量の減少や担い手不足といった深刻な水産業の課題に直面している宮崎県都農町では、この現状を打破するため「育てる漁業」に舵を切り、絶滅危惧種である「タマカイ」の養殖に挑戦した。NTTや大学との多分野連携協定に基づき、ICT技術と専門的知見を融合。プロジェクト開始からわずか1年で安定生産を実現し、世界で初めてタマカイの完全閉鎖循環式陸上を成功させた。この取り組みは、全国の自治体が抱える地域活性化への新たなヒントとなる可能性を秘めている。

幻の高級魚「タマカイ」

宮崎県都農町の漁港近くにある大きな施設。 

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中には7mの大きな水槽が並ぶ。

 水槽の中にいるのは、幻の高級魚「タマカイ」だ。

 タマカイは、南西諸島や沖縄周辺の暖かい地域に生息するハタ科の魚。成長すると体長が3mを超えることもある、ハタの中では最大級の大きさを誇る大型魚だ。

 都農町ひょうすんぼ協同組合養殖担当 三輪将也さん:
自然界では2mくらいまで大きくなるが、 ここでは食用に出荷しようと思っているので、大体50cmぐらいのサイズ。

 三輪さんはタマカイについて、「見た目はいかついが、実際に食べてみるとめちゃくちゃおいしい魚で、身に弾力があり、脂がのっていて甘く、皮がゼラチン質で分厚い。火を通すとすごくおいしい。なかなか食べることのない、“知る人ぞ知る”魚かなと思う」と話す。

そんなタマカイは現在、絶滅危惧種に指定されている。

 近畿大学でハタ類を中心に養殖研究を行っている青木助教によると「1番の理由は過剰な漁獲。獲りすぎてしまって、天然の個体数が減っている。サンゴ礁などの生育環境の悪化も影響しているかもしれない」と話す。

都農町の水産業が直面する危機

都農町では現在、2基の水槽で約1100匹のタマカイを養殖。ふるさと納税の返礼品として全国に出荷している。タマカイの養殖から出荷まで行っているのは国内で唯一、都農町だけだ。

今回なぜ養殖を始めたのか。そこには都農町が抱えていた深刻な課題があった。

 都農町農林水産課 川畑洸輔さん:
なんといっても漁獲高の減少。海面や海水温の上昇で魚が獲れない。それにつれて、経営体も減少している。

 都農町によると、水揚げ量は1992年の251,196㎏から、過去30年間で85%減の15%(37,667kg)に激減。水揚げ高も17%の3,495万円まで落ち込んでいる。さらに、漁師や漁業の数は2003年には65あったものが、2023年には29と、この20年間で約半分まで減少している。担い手不足も深刻だ。

 都農町漁業協同組合参事 大橋良行さん:
現在、1日の水揚げが多くても300kg前後。少ない日は20kg~30kgの時もある。昔と比べたら何分の1。沖に行っても赤字になることもあるし、漁師になろうという若い人たちが今はいない。危機だらけ。

「獲る漁業」から「育てる漁業」へ

こうした水産業の衰退に歯止めをかけるべく、都農町は「水産業夢未来プロジェクト」を立ち上げた。

 「獲る漁業」から「育てる漁業」に注目し、安定した魚の生産と水産業の立て直しを目指したのだ。その中で、着目したのが「タマカイ」だった。

都農町農林水産課の川畑さんはタマカイを選んだ理由について「暖水系の魚で、宮崎での養殖に向いている。まだ国内でやっていない希少価値のある魚で、成功したら都農町のブランドになる」と話す。

 成功へ導いた産官学連携

都農町はタマカイの養殖プロジェクトを開始するにあたり、養殖に必要な人手、管理体制、そしてノウハウが十分にないという課題に直面した。

 そこで選んだのが、地方自治体、企業、大学などが共通の目的に向かって支援や情報を共有しながら取り組む「多分野連携協定」だった。

 都農町はNTTとタマカイの研究を行う大学と連携を結び、NTTのICT技術で人手や管理の面を、大学の専門的な知見で養殖のノウハウを補う体制を構築した。NTTの担当者はプロジェクト当初から取り組みをサポートしている。

 NTT東日本ビジネス開発部営業戦略推進部 越智鉄美さん:
月に1~2回は東京から来ている。うまくいくように設計していてもうまくいかない事の方が多い。遠隔でやっていても解決するのに時間がかかってしまうので、現場に来て、現地の方とコミュニケーションを取ることが大事かなと思っている。

 NTTが支える技術とは「完全閉鎖型循環式陸上養殖」だ。

 これは、魚を飼育する水を捨てずに濾過・浄化しながら循環させる仕組みで、天候に左右されず、汚れた水が外部に流れ出ないため環境負荷を抑えられる。さらに、病気のリスクが少なく、安全安心な環境で魚を育てられるため、養殖経験やノウハウが少なくても一定の品質で安定した生産ができるという。

 水中のセンサーが水温や酸素の状態を24時間監視し、最新のICT技術が蓄積されたデータからタマカイの成長しやすい環境を分析。最適な生育環境で安定した養殖が可能だ。

NTT東日本ビジネス開発部営業戦略推進部 越智鉄美さん:
プラント(養殖設備)の管理の安定性と安心性を付与している。万一ドラブルがあった時も遠隔で同じデータをみて、解決策をみんなで議論し迅速な対応ができる。うまくいかないこともたくさんあるけど、データを積み上げることによって、勘に頼らずにデータに基づいた定量的なノウハウを作っていくことが、今後、より安定性の高い事業にしていくための基盤になるかなと思う。

 大学からは、タマカイの養殖に欠かせない専門的な知識のサポートを受けた。タマカイの成長を促す成分を含んだ人工海水や、海面に差し込む光を再現した緑の光を当てることで自然に近い環境をつくり、タマカイのストレスを抑えて成長を促すという。

都農町の三輪さんは「我々だけでは絶対に養殖を成功させることはできない。今後とも一緒にやっていけたらと思う」と話す。

 1日の始まりは魚に異常がないかの確認からスタート。水槽を管理する機械のメンテナンス、手作業での水質検査を経て、魚に餌を与える。養殖ノウハウはゼロからのスタートだったが、問題が発生するたびに関係者に解決策を教えてもらい、積み重ねていくことで、着実に知識と経験を蓄積していった。

 この産官学それぞれの力が結集した結果、養殖開始からわずか1年で、当初60gだったタマカイは2kgにまで成長した。海での養殖に比べ成長のスピードは約3倍、生存率も94%という高い数値を記録。安定した生産性が確認され、タマカイの完全閉鎖循環式陸上養殖は世界で初めて成功した。

 都農町ひょうすんぼ協同組合養殖担当 三輪将也さん:
毎月の測定で平均体重が増えていくたびに、やりがいや喜びを感じた。都農町役場、NTT、大学、そして現場スタッフが一丸となって育てた努力の結晶だと思う。

NTT東日本ビジネス開発部営業戦略推進部 越智鉄美さん:
都農町が地域発展に貢献したいという思いが強く、日本でも例のない陸上養殖という産業に入っていく覚悟と気合を持って取り組んできた中で、我々のことを信頼していただき、一緒にできてすごく幸せな気持ちでいっぱいだ。

都農町農林水産課 川畑洸輔さん:
私たちでは知ることのできない技術や知識を外から借り、現場で実践に落とし込むことで町の産業として根付かせる。新しいやり方がひとつ提示できたと思う。

町のシンボルと地域活性化 

2025年にはふるさと納税のクラウドファンディングを実施し、目標金額300万円に対し500万円を超える寄付を集めるなど、大きな反響を呼んだ。寄付金は新たな養殖場の建設費用として活用される。

 2026年9月には40t水槽を新設し、量産化体制を整える予定だ。

都農町農林水産課の川畑さんは「何としてでも成功させ、県民、町民、漁業者の方に少しでも早く還元できるように取り組んでいる」と話す。

 また、三輪さんは「“都農町といえばタマカイ”というような町のシンボルにしていきたい。将来的には、1年で出荷できる体制を整え、宮崎県内にもタマカイを供給できたらと思っている」と話す。

人手不足や産業の衰退に悩む自治体が増える中、都農町のタマカイ養殖プロジェクトは、それぞれの得意分野を生かしながら一つの目標に向かって連携する「多分野連携」の成功事例として、新たな地域活性化のヒントとなる可能性を秘めている。

 都農町のタマカイは、ふるさと納税の返礼品として出荷されている。気になる方は「つのタマカイ」で検索、または「都農町ふるさと納税サポート室」までご連絡を。

(テレビ宮崎)

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