3月20日、卒業式も終わったこの時期に、異例とも言える高校バレーボーラーたちの引退試合が行われていた。

プロも使用する大阪市の「おおきにアリーナ舞洲」のコートに立っていたのは、東山高校男子バレー部のメンバーだ。

昨年創部初の春高バレー優勝を成し遂げた東山高校は、今年は部員の発熱により3回戦で、“棄権”という形で姿を消していた。

コロナ禍に翻弄されたバレー部員の最後の試合を追った。
 

2020年度、唯一の全国大会だった春高バレー

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2020年の春高バレー決勝。

京都・東山高校は、全国屈指の強豪校である東京・駿台学園との試合を制し、創部以来初の優勝を成し遂げた。

今年度はスタメンの内5人が3年生として残り、その安定した強さから連覇のみならず、高校バレー3冠も夢ではないと思われていた。

しかし新型コロナウイルスの感染拡大により、インターハイが中止となり、国体も延期と、立て続けに全国大会が無くなり、彼らに残されたのは唯一開催が決定した春高バレーだけだった。

日本一を目指す彼らにとって、最初で最後の全国大会となった春高バレー。

3年生にとっては、一年を通して作り上げたチームの集大成を見せる舞台だ。

それが最初で最後の全国大会だからこそ、キャプテンの吉村颯太選手はプレッシャーと戦っていた。

練習中には「春高まで時間がほんまに無いねんて。俺ら弱いし、勝てるって保証もないやん。一回も全国大会やってないんだから」と声を荒らげる吉村選手。

コロナ禍の中でも、最後の舞台のために出来得る限りの練習で、チームをまとめ上げてきたのだ。
 

残酷な形で終わってしまった春高バレー

2021年1月5日、春の高校バレーが開幕。

新型コロナウイルスの影響で無観客での開催となった本大会で、東山高校はシード校として2回戦目からの試合となった。

彼らにとって初戦となる神奈川・東海大相模との試合で、2-0のストレート勝利を飾り、連覇へ向けて最高のスタートを切っていた東山高校。

吉村キャプテンは試合後、「インターハイ・国体がなくなってしまって、その分この大会にかける全員の思いが強かったので。絶対2連覇します」と力強く語っていた。

しかし最高のムードで迎えた大会3日目の1月7日、部員1名の発熱が確認された。

試合を控え、ユニフォーム姿でコートで準備を進めていた彼らの元に、豊田充浩監督が悲痛な表情で駆けつけた。

「大会本部から連絡があって、今回は発熱者が出たと言うことで出場は辞退してくれと…」

大会実行委員会の判断で東山の棄権が決定。(後に発熱者は新型コロナウイルス陽性であることも判明)

監督は涙で声を震わせながら、部員たちに呼びかけた。

「戦う前にこういう事態になってしまったので、先生も悔しいけどこらえないと仕方ない。昨日の試合見ていても、すごく楽しそうだったし、今日もその姿を見たかったけれども仕方ない。堂々と体育館出て行こう」

3年生達はこれで引退となる。

あまりにも残酷な形で彼らの夢は奪われた。
 

特別に用意された引退試合

春高バレーから2ヶ月が経った3月19日、東山高校の体育館には、卒業したはずの3年生が練習に励む姿があった。

一度は消えてしまった花道を作ろうと、Vリーグのチームや近隣の強豪校・市立尼崎高校の協力で、特別な引退試合が2日間用意されたのだ。

その試合へ向け練習を積む中でも、吉村キャプテンはあの日を引きずっていた。

「今回20、21日と試合がありますけど、やっぱり春高という舞台が本当に特別だと思うから、もうこれから悔しさが消えないんじゃないかなと思うくらいしんどい思いでした」

その思いを消化するためにも、準備された引退試合に全力で臨む。

練習も熱を帯びていた。

迎えた引退試合。会場はVリーグの試合も行われる大規模なアリーナ「おおきにアリーナ舞洲」だ。

スタンドには家族の姿もあり、吉村選手の父・忠明さんは、「凄く嬉しかったですね。ああいう形で終わってしまったので、本当に感謝、感謝です」と息子たちのために準備されたこの舞台を喜んでいた。

そして「また一つ成長した姿が見られると思っています」と続けた。

今年度唯一の全国大会・春高バレーは、無観客試合。しかし今回は、多くの声援を受けながらコートに立てたことに吉村選手は喜びを感じていた。

「やっぱりこのメンバーとできるのは楽しいなと思いましたし、改めて応援してもらって、凄く鳥肌が立ちましたし、応援っていいな、凄く後押しされるなって」

2−1で、初日を勝利で飾った東山高校。

しかし、翌21日。

大会関係者の発熱が確認され、予定されていたラストマッチは中止となり、またしても最後の花道を失った形となってしまった。

「『またか』という思いが正直あって…。だけどやっぱり昨日ああいう形で自分たちのため
だけに試合をやってくれた方々がいて、止まっていてもしょうがないので、次のステージでしっかり自分の目標を持って頑張りたいと思います」

そう語った吉村選手は、「前を向きます、向きます」と力強く語った。

支えてくれる人の温かさをこんなにも感じられたのは、今年だからこそなのかもしれない。

チームは引退試合2日目の中止が発表された後、やり場のない悔しさをぐっとこらえて、輪になって笑顔をみせていた。

「次のステージでも頑張りましょう!よっしゃ!いこー!」


(ディレクター:四居由佳)