「心配しているけど、仕方ないです。いま香港の政治状況はこんなことになりました」

全人代の開幕直前 香港の民主派を一斉収監

2月28日、路面電車や2階建てバスが行き交う香港島の繁華街・北角(ノースポイント)。やや硬い表情でFNNの取材に応じたのは、区諾軒(おう・だくけん)元立法会議員(33)だ。東京大学公共政策大学院博士課程に在籍する留学生でもある区さんは、1月に香港に一時帰国した直後、国家安全維持法違反の疑いで逮捕された。

いったん保釈されたが、この日、区さんを含む民主派52人が急きょ警察への出頭を求められた。地元メディアは、そのまま起訴・収監される可能性があると報じていた。

FNNの取材に応じる区諾軒・元立法会議員
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「民主派つぶし」が止まらない

区さんらにかけられた容疑は、2020年7月、民主派が香港の立法会(議会)の選挙を前に行った予備選挙に関するものだ。区さんはこの予備選の主催者の1人(その後離脱を表明)として、民主派同士で候補者を調整し、議席の過半数を押さえることを狙った。

候補者絞り込みのための戦術として合理的なものに見えるが、立法会で政府の予算案を否決し香港トップの行政長官を辞任に追い込むことを目標に掲げたことなどから、国家安全維持法の「政権転覆」の罪にあたるとされた。

結局、11月に予定されていた立法会選挙は新型コロナウイルス対策を理由に延期が決まり、その後民主派の現職議員が一部議員の資格はく奪に抗議して一斉に辞職した。いまや立法会はほぼすべての議席を親中派が占め、中国の国会にあたる全国人民代表大会(全人代)同然との声も上がるが、なお「民主派つぶし」は止まる気配がない。

新型コロナの影響もあり、デモが消えた香港

中国政府で香港政策を担当する香港マカオ弁公室の夏宝竜主任は、2月22日、「愛国者治港(愛国者による香港の統治)のため選挙制度を完全なものにしなければならない」とスピーチした。民主派を議会から完全に閉め出すために香港の選挙制度の変更を訴えたのだ。

中国共産党系メディアは、3月5日に開幕する全人代で、早速その選挙制度の見直しが審議されるとの見方を伝えている。万が一にも香港の支配が揺らいではならない―。全人代直前の区さんらへの突然の出頭要請は、中国政府の強い決意を反映したものにも感じられる。

「新しい選挙制度をつくりたいという情報が入ってきています。民主派は反対勢力、もう価値はないということなのでしょう。昔の香港のような政治の自由はほしいですが、その可能性は低いと思います」

この日は区さんの結婚記念日。「家族や友人に申し訳ない」と話した

淡々と、言葉を選ぶように話した区さん。「外国勢力との結託」を禁じる国家安全維持法のもと、香港では海外メディアの取材を受けること自体がリスクだ。あえて直接的な政府批判を避けているようにも感じられたが、日本の人たちへメッセージがあるかと聞くと、意外にもあの大ヒット漫画の登場人物の名前が飛び出した。

「鬼滅の刃」のセリフに託す最後のメッセージ

「『俺はいかなる理由があろうと鬼にはならない』、『胸を張って生きろ』。それが煉獄さんのセリフです。このように生きたいです」

日本のアニメに詳しい区さんが挙げたのは、海外でも広く知られる漫画「鬼滅の刃」で、一、二を争う人気キャラクターである煉獄杏寿郎のセリフだった。「人間のために戦うのをやめて鬼になれば、不死の体を得てもっと強くなれる」という敵の誘いを拒否し、杏寿郎は倒れる。

そして鬼と戦う仲間である主人公・炭治郎らを「己の弱さやふがいなさに打ちのめされても、胸を張れ、心を燃やせ」と励ますのだ。民主主義や自由をあきらめるな、たとえ逮捕されたとしても胸を張れ―そんな言葉にできない思いを、このセリフに託したのだろうか。

警察署に入る区さん 最後に「5大要求」実現を求めるハンドサインを見せた

その後、区さんはカメラに向かって軽く手を振って警察署に入っていった。事前の予想通り、そのまま起訴・収監され、翌日から裁判が始まった。国家安全維持法の最高刑は無期懲役。政権転覆罪の場合、有罪が確定すれば10年以上の禁錮刑も覚悟しなければならない。

「また東京大学で勉強したい」という区さんの願いが叶う日は来るだろうか。そして、北京で始まる全人代の審議で、香港議会の“全人代化”はどこまで進むのだろうか。

【執筆:FNN北京支局 岩佐雄人】