左眼窩底骨折、鼻骨・鼻中隔骨折、顎の亀裂骨折…元プロボクサーに殴られ、蹴られ、頭突きまで受けた男性は全治約3カ月の重傷を負った。

妻への嫉妬を理由に深夜のカラオケバーで始まった暴行は、路上、児童遊園と場所を変えて続いた。元プロボクサーによる暴行は刑事事件となり、罰金50万円の略式命令を受けるに至った。民事裁判でも2026年1月、裁判所は700万円超の賠償を命じた。

「ボクサーの拳は凶器」といわれる事もあるが、裁判所は元プロボクサーによる暴行をどう評価したのか。

妻と同席した男性に執拗な暴行…

原告の被害男性、会社員の山田智也さん(仮名)は2021年12月の深夜、知人であり、被告の妻である佐藤美咲さん(仮名)に誘われ、カラオケバーにいた。

被告で元プロボクサーの佐藤健一さん(仮名)は当日の夜、妻に「何しとんの」とメッセージを送信。「飲んでる」と返信があったため、「誰と?」などと送ったが、既読後に返信はなかった。

被告の佐藤さんは強い嫉妬心を抱き、位置情報アプリで妻の所在を突き止め、店へ向かった。

店に到着すると、佐藤さんは山田さんの顔面を平手打ちで2回殴るなどの暴行を加えた。

さらに、路上で顔面や両脇腹を拳で5,6回殴り、頭突きをした上で、転倒しかけた山田さんの腹部を蹴るなど暴行を繰り返した。

その後、佐藤さんは山田さんの髪をつかんで近くの児童遊園まで連行し、土下座のような体勢の山田さんの背中に取り上げた免許証を置き、携帯電話で撮影した。

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山田さんは左眼窩底骨折、鼻骨・鼻中隔骨折、右下顎切痕部亀裂骨折などの重傷を負い、12日間入院し、手術を受けた。術後はしばらくの間、物が二重・三重に見える“複視”の症状が出た上、眉間がしびれる感覚異常が永続的に残ったと診断された。

被告の佐藤さんは2022年9月、傷害罪で略式起訴され、罰金50万円の略式命令を受けた。起訴状には、公訴事実として「全治約3か月」と記載された。

暴行で精神疾患発症 原告主張

原告の山田さんは、被告・佐藤さんの一方的かつ執拗な暴行により重い外傷を負い、入院・手術・通院を余儀なくされたとした。

外傷に伴う後遺障害として眉間のしびれが残り、医師が「改善困難」と診断していることを根拠に、後遺障害等級は「12級13号」に当たると主張した。

さらに、暴行を受けた影響で不安障害やうつ病といった精神疾患も発症し、就労に相当の制限が生じたとして、後遺障害「9級10号」に相当するとの意見書を提出。

治療費、文書料、交通費、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、休業損害、将来の逸失利益などを合算し、約2405万円の支払いを求めた。

被告は「原告にも落ち度」主張

一方、被告の佐藤さんは、暴行に及んだ動機について、妻から「山田さんに抱きつかれ、キスを迫られた」などと助けを求める連絡を受け、危険が迫っていると誤信して駆けつけたと主張した。

したがって、原告・山田さん側にも落ち度があるとして過失相殺を求めた。

また、外傷による後遺障害は就労に影響しない軽微なものだとし、12級ではなく14級相当と反論。

精神疾患についても、通院開始が暴行から約9か月後であることや、診断書に「本人曰く」と、自己申告であるとの記載があること、通院していた時期に配達業務やスナックの手伝いなど、就労していた事などを指摘。暴行と精神疾患との因果関係を否定した。