世界でも高い評価を受けている日本の『ものづくり技術』。
そのたぐいまれな技術と世界を席巻する日本のアニメをコラボした展示会が、芸術の都・パリで開かれました。
たぐいまれな技術力が人材確保につながる好循環の舞台裏に迫ります。
芸術の都フランス・パリ。
世界中から人と文化が集まるこの街で、ある作品が注目を集めていました。
「すごく精密につくられていて、まるでこのキャラクターが目の前にいるかのようです」
多くの人が足を止め、熱心に目をむける鎧の姿。
実はこちら、人気アニメ『鋼の錬金術師』に登場するアルフォンス・エルリックを再現した鎧なんです。
【株式会社キャステム 新規事業本部 池田真一さん】
「一番のこだわりは再現力!サイズ・形・重厚感・金属ならではの質感…。再現することにこだわりました」
そう話すのは、株式会社キャステムの池田さん。
実は、この鎧、広島県福山市に本社を置く精密部品製造会社、キャステムが開発・製造を手がけたものなんです。
普段は、航空部品や医療機器など、高い技術力が求められる精密部品を多く手がけるキャステム。
そのものづくりを支えているのが、溶かした金属を、型に流し込んで形をつくる『鋳造』と呼ばれる技術。
まず、完成させたい部品の形を映し取った型をつくります。
そこへ、高温で溶かした金属を流し込み、冷やして固める。
固めた後、型を壊すと、同じ金属の部品ができあがる。
これが鋳造と呼ばれる技術です。
さらにキャステムでは、一般的な鋳造よりもさらに細かな表現が可能な「精密鋳造」という技術を使用。
細かなオウトツや入り組んだ形状まで、忠実に再現できるのが特長です。
そしてもう1つ、キャステムが誇る技術がありました。
【株式会社キャステム 新規事業本部 池田真一さん】
「すごく精度が高い3Dプリンター。塗装をすることなく、色ごと立体になる」
3Dプリンターは、データを基に、立体を形にする技術。
キャステムでは、ものづくり企業の中でもいち早く導入し、今ではその数、なんとおよそ100台!
今回の鎧でも、最新の3Dプリンターで原型を作り、金属を流し込む前の「型」として使用。
そこに精密鋳造の技術を組み合わせることで、どこから見ても、圧倒的な再現度を誇る鎧が完成したのです。
でもどうして、アニメのキャラクターを再現することに取り組んだのでしょうか?
【株式会社キャステム 新規事業本部 池田真一さん】
「新規事業を始めたのが2016年ごろになるんですけど、それ以前は、キャステムは部品だけをつくっていました。地域の方にもキャステムがどんなことをやっている会社なのか認知もできていなかった。キャステムに入りたいっていう人材もなかなか来ず、募集しても10人来れば良い方」
広島県内の企業が、いま直面している課題。
それが、深刻な人材不足です。
県内の企業に人手不足についてアンケートをとったところ、全体として不足・やや不足と回答した事業主は、およそ67パーセント。
中でも10代20代の従業員が不足・やや不足と回答した事業主は、およそ77パーセントにもなるんです。
人材不足という課題は、キャステムも例外ではありませんでした。
そんな中、新たな転換のきっかけとなったのが、誰もが知るアニメキャラクターのものづくりだったのです。
そしてこの取り組みが、大きな反響を呼びました。
【株式会社キャステム 新規事業本部 池田真一さん】
「ここ最近では800人を超えるエントリー。キャステムの『おもしろいものづくり』を自分たちもやりたい。応募が殺到しています」
そんなアニメのものづくりをきっかけに、入社を決めたというこんな社員も。
【株式会社キャステム グループ戦略本部 藤田悠希さん】
「福山市に住んでいるんですけど、キャステムっていう会社を知らなくて、ある日ニュースを見ていたら(ポケットモンスターの)モンスターボールが出てきて、福山市のキャステムっていう会社がつくったというニュースを見たときに、『えっ、こんなのつくってるの!?』っていうのが一番のきっかけです。部品だけじゃなくてアニメとコラボして、『自分たちの技術を使って一般のお客さんにPRしよう』という事業展開がおもしろくて興味を持ちました」
現在は広報として、会社の取り組みやものづくりの魅力を発信する藤田さん。
それは、かつての自分と同じ思いを持つ新たな仲間と出会うため。
日々その想いを発信し続けています。
そんなキャステムのものづくりへの想いは、いま、海を越え、フランスへ。
2026年1月14日から4日間、フランスの若者が集まるマレ地区で行われたエスプリアニメ、アームアーティザナル。
会場に並んでいるのは、日本全国の企業が手がけた、アニメとのコラボレーション作品11点。
日本のものづくり企業の技術力を、現地に伝えるための取り組みで、キャラクターの世界観を、それぞれが持つオリジナルの技術で、現実のかたちにしています。
今回の展示会を手がけた、中国経済産業局の間田さんにお話を伺うと…。
【経済産業省 中国経済産業局 間田伸一郎さん】
「今回の展示会の目的は、日本のものづくり企業が今までよりも海外展開がしやすくなるために、新しい手段として、アニメ・漫画など世界で知られているものとコラボレーションすることで、もっと海外展開しやすくなるのではないかと思って調査に来ました。思ったよりも多くの人が来てくださって質問してくださったりとか、すごく笑顔が見られたので満足しています」
アニメをきっかけに、日本の技術に触れる。
実際に目にした現地の来場者は日本のものづくりについてどう感じたのでしょうか。
【展示会を訪れたお客さん】
「素晴らしい展示会です!本当にさまざまな作品が展示されていて、使われている技術もそれぞれ違うので、とても魅了されました」
「作品そのものをかなり忠実に再現しているところが面白い。細かいところまで、ちゃんと再現されていて、職人の精密さや技術の高さには本当に驚かされます。私はアジア文化、特にマンガの大ファンなので、展示されている作品のクオリティには、かなり感動しました」
【在フランス日本国大使館 川端章義さん】
「日本のものづくり技術の高さはフランスの方もなんとなくは理解しているんですが、それを実際に感じとっていただくことが必要だと思いますので、知るきっかけとして(アニメ)コンテンツから始まるというのは、ひとつの取り組みの方法ではないかなと思います」
アニメの世界を、現実のかたちにした、日本のものづくり。
精密な技術は、言葉の壁を越え、確かな驚きとして伝わっていました。
若者の心を動かし、海を越えて、世界へ。
日本のものづくり技術は、今、フランス・パリで、新たな可能性を示しています。