米中が覇権争いをする中、存在感を失う日本には人材の育成が急務だ。2020年に行われる教育大改革に向けて、テクノロジーやデータ科学を教育現場でどう活用するか?ブラック職場と化している教師の働き方改革は?そして東京医大の不正入試や日大アメフト問題で浮かび上がった大学のコンプライアンス問題は?学校教育の司令塔、柴山昌彦文科大臣に、編著「2020教育改革のキモ」をもつフジテレビ解説委員鈴木款が直撃インタビューした。

柴山プランの提言

 
 
この記事の画像(5枚)

ーー柴山大臣が先月公表した「柴山・学びの革新プラン」を拝読しました。未来をいきる子どもたちの学びを支えるため、先端テクノロジーをどう活用するか?という視点に立った、これまでにないプランですが、まず大臣の教育現場に対する想いと危機感を教えてもらえますか?

柴山文部科学大臣
非常に大きな社会の変化を受けて、教育現場が大きな取り組みを迫られていると思っています。先端技術の投入、ICTの利活用が当たり前の「Society(ソサエティ)5・0」の時代だからこそ、もちろん人と人とのかかわりあいが非常に本質であることは言うまでもないですが、教育の質の抜本改革のために柴山プランを提言させていただきました。施策の大きな方向性を示すものですが、具体化の検討に向けて加速していかなければいけないと強く思っています。

 ーー先端技術と言うことで言いますと、いまアメリカと中国がデジタルで覇権争いをしている中で、日本は埋没しています。日本には先端技術を理解できる人材が、他国に比べて育っていないのではないかという思いがあります。たとえば理系文系でいうと、日本の理系は先進国の中でも圧倒的に少ないわけですよね。こういった状況についていまどういうお考えですか?

柴山大臣:
そういう意味では、文理の垣根を超えた教育の充実が求められていると思いますし、柴山プランでいえば、教師の質もしっかりと高めていく必要があると思います。教師を支えるツールとしてICTの利活用と環境整備ということが求められていると思いますし、すでに学校現場におけるそういった取り組みのために、自治体の要請に応じて「ICT活用教育アドバイザー」の派遣等の取り組みも推進しているところです。

教育の“見える化”の推進

5月開催予備調査 生徒はヘッドセットを装着し画面に表示される問題にしたがって音声を吹き込む
5月開催予備調査 生徒はヘッドセットを装着し画面に表示される問題にしたがって音声を吹き込む

ーー平成31年度に中学で英語4技能試験が行われますが、やはりICT、タブレットやPC、ネットワークの整備ができていない学校が多くて、私も見ていて危惧しています。

 柴山大臣:
いまおっしゃったように非常に困難な環境を、計画的に改善していくことが必要だと思っています。そのために今年度から「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画」を立てて、単年度に1,805憶円の地方財政措置を行い積極的な活用を促進していきます。また市区町村の単位ごとに格差があるものですから、そのデータを公表することによって「見える化」をして、学校のICT環境整備を促進しているところです。

中学校の英語を話す調査は、学校のPC端末などを活用して実施することになっていますが、ここがなかなか行き渡っていません。文部科学省では調査の着実な実施に向けて、ICTの環境整備に取り組んでいきたいと思っています。

 ーーグローバル社会では共通言語として英語は必須ですね。2020教育改革で、これから小学校低学年でも英語に触れる機会が増えてくるわけですが、一方で教える人材が足りないんじゃないかと。私が取材した埼玉県戸田市では、英語ネイティブな方をALT(アシスタント・ランゲージ・ティーチャー)として活用する取り組みをしていました。

柴山大臣:
外部人材をこれからの英語教育などで活かせる部分は、非常に大きいと思っています。一般論ですが、民間企業と連携することが教育の質を向上するうえで、大変重要ではないかと。柴山プランの中でも、学校、教育委員会、民間企業等が連携した先進事例の収集、情報提供、また関係省庁、大学などと連携した先端技術導入のための環境構築を提言しています。こういった取り組みをスピードアップしていきたいと思っています。

EBPM=証拠に基づく政策立案の推進

 
 

 ーー先ほどデータについて触れられましたが、今後学力や学習状況調査のデータを活用した教育の見直し、いわゆるEBPM(エビデンス・ベースド・ポリシー・メイキング=証拠に基づく政策立案)を進めていくお考えはありますか?

柴山大臣:
私は結構、改革マインドに溢れていると自負している人間です(笑)。改革の大きなツールとして、いまおっしゃったEBPMを、教育政策の効果と必要性をしっかりと理解してもらう施策として、活用するのは重要だと思っています。

そのために今年の6月に閣議決定した「第三期教育振興基本計画」でも、「客観的な根拠を重視した教育政策の推進」が明記されています。今年10月に新設した文科省の「総合教育政策局」では、「調査企画課」という新しい課を設けて、教育分野におけるEBPMの推進体制を強化したところです。

ただ、教育というのは他の分野と比べて、成果が判明するまでに長い時間を要するものが多いですよね。そしてこの成果の要因となっているものには、もちろん学校での教育だけじゃなくて家庭環境ですとか、外部要因が強く影響しているのも見てとれる部分があります。EBPMの推進にあたっては、いま言ったような非常に難しい部分についても、情報の客観性を確保しつつ、適切な情報収集分析をしていく必要があるのかなと思っています。「国立教育政策研究所」や、外部の研究者などとも連携をして、しっかりと信頼できるEBPMに取り組んでいきたいと思っています。

 インタビューは第2弾に続く。

(執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款)

 
鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。