178万円に引き上げられる方向で最終合意となった、いわゆる“年収の壁”。暮らしにどう影響するのか。福岡の現場を取材した。

自民党が譲歩したかたちで決着

高市早苗首相と国民民主党の玉木雄一郎代表が2025年12月18日に会談し、いわゆる“年収の壁”について、所得税が課される最低ラインを現在の160万円から178万円まで引き上げることなどで合意した。

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今回の合意では、物価上昇に合わせて控除額を増やすなどし、その上で対象を年収665万円まで広げることで、納税者の8割がその恩恵を受けられるようになるという。

具体的には、会社員と専業主婦中学生の子どもの3人世帯の試算では、年収500万円だと1万8千円。600万円では3万7千円と中所得層中心に手取りが増える試算だ。

対象について低所得者に重点を置く自民党に対し、中間層まで広げたい国民民主党との間でギリギリの調整が続いたが、最終的に自民党が譲歩したかたちで決着した。

「物価も上がっているし…」

“壁の引き上げ”について福岡の街なかでは「手取りが増えるのは、個人的には嬉しい」(会社員・20代)。「年収の壁があって、ここまでしか働けず、シフトに入ることができないという人もいたから、それで手取りが増えるのはいいこと」(会社員・20代)などの意見が聞かれた。

しかし一方で「手取りが上がるのはいいことだと思うが、物価も上がっているし、本当にそれだけで対応できるのか気になる」(会社員・20代)。「キリのいいところまで上げたらいいんじゃないかと。200万円ぐらいまで上げてもらえたらいいかな。178万円じゃ恩恵を受けられる人が少ないと思うので、もうちょっと頑張ってほしい」(会社員・30代)という意見も聞かれた。

依然、立ちはだかる社会保険の“壁”

“年収の壁”の引き上げは、現場にどのような影響を与えるのか。

福岡市東区のスーパー『エムズ美和台店』で働くスタッフの半分以上が、主婦のパート。店の欠かせない戦力になっている。30人ほどのパート主婦が働くこのスーパーでは、年末が近づくと“壁”を意識して働く時間を調整する人が出てくるという。

『エムズ美和台店』店長の久松浩一さんは「毎年のことなので、それなりには毎月毎月で調整してやってはいたんですけど、今月から来年のお給料になりますので、11月までの勤務っていうのが、調整がかかっていた感じです」と話す。

働く時間を調整するスタッフが出てくる11月は、クリスマスや正月など年末商戦に向けた発注が増える月でもある。店としては働き手の数が必要な時期で、働き控えなどによりスタッフが足りない時は、単発バイトを雇うなどして対応したという。

“年収の壁”の引き上げで、こうした苦労は無くなるのか。久松店長は「保険料、社会保険の問題の方が、やっぱりでかくて、超えちゃうと社会保険を外れて、自分の保険証を作らないといかんというところになりますので、税金よりそっちの方が、ネックが大きい」と話す。

今回、引き上げられた“壁”は、所得税がかかる最低ラインであって、年収130万円を超えると扶養から外れ、社会保険料の支払いが始まるといった社会保険の“壁”は、依然として立ちはだかっているのだ。

最低賃金も上がるなか、社会保障も含めた壁の議論を進めない限り、労働力不足は解消できない現状があるという。

「上限がやっぱり決まっているので、それまでしか働けないので、会社としては、さらに別の方を雇用しなくちゃいけない。働くならとことん働いてもらった方が会社の負担は減ってきますので、難しいところですね」(『エムズ美和台店』久松浩一・店長)。

2026年度の税制改正大綱に盛り込まれた“年収の壁”の引き上げ。どれだけの効果を生み出すのか、その実効性が問われている。

(テレビ西日本)

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