私たちがほとんど毎日食べているお米。けれど、生活の中に当たり前にあるものだからこそ、実は知らないことも多いもの。おいしい炊き方や上手な保存方法など、知っているようで知らない話を、お米に魅了されて新聞記者から米農家に転身し、現在は「お米ライター」として活躍する柏木智帆さんが綴る。
文・写真=柏木智帆
お米の「旬」は収穫直後ではない?
お米の「旬」はといえば、多くの人が「収穫の秋」とか「新米の時期」というふうに答えるのではないでしょうか。
お米は一般的に収穫した年内だけ「新米」と呼ばれています。今年とれたお米は年が明けると「新米」ではなくなるわけです。新米期間が短いためか、豊穣への感謝からか、日本人には新米信仰があり、「新米だからおいしい」という声も聞かれます。でも、果たしてそれは本当なのでしょうか。
たしかに新米は香り高くみずみずしい傾向がありますが、収穫後に3〜4カ月ほど経ってから味がのってくるお米もあり、年明けから春先ごろが「お米の旬」だと感じています。私が稲作を生業にしていたとき、収穫したお米の味が前年産よりも薄くて落ち込んだことがあったのですが、3カ月ほど経ってから味がのってきたという経験がありました。
こうした収穫後のお米の味わいの変化について、複数の料理人やお米関係者に聞いてみたことがありますが、軒並み「新米よりも年明けに味がのってくる」「水分が落ちつく年明け頃がおいしい」という回答でした。ある料理人の言葉を借りると、「熟成させて脂が全体に回った魚には獲れたての魚とは別のおいしさがあるように、お米の旨みを感じるのも年明けくらい」というわけです。
なぜ味がのってくる?
年明けから味がのってくる理由として、「お米に含まれる硬い脂が融けて軟らかくなるからでは」という説や「玄米は生きているため代謝が進み、貯蔵されている成分が分解されることで味わいが変わるのではないか」という説など、さまざまな見方があります。
