アメリカ・ニューヨーク市で2026年1月1日、初のイスラム教徒の市長が誕生した。

「家賃凍結」「バス無償化」などを公約に掲げたゾーラン・マムダニ氏が劇的な勝利を収めたニューヨーク市で、イスラム文化や歴史について知ることができるプライベートツアーを、宗教学者の案内のもと取材した。

「マムダニ氏は『ニューヨーク物語』そのもの」

いつも夜遅くまで行列ができる屋台がマンハッタンにある。6番街と53丁目の交差点にあるB級グルメの「HALAL GUYS(ハラル・ガイズ)」だ。

チキンとライスのプラッターは人気
チキンとライスのプラッターは人気
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ここはイスラム教で許された「ハラル」に対応する食べ物を提供し、ニューヨーカーのおなかを満たす。こうした光景はニューヨークの日常になっていて、イスラム文化を垣間見ることができる。

若者の間で圧倒的な支持を受けるマムダニ氏は移民であり、元ラッパーであり、民主社会主義者を自称する。世間を驚かせた歴史的な選挙戦は無論、多くのイスラム教徒が支えた。

ケイティ・メリマン博士が解説
ケイティ・メリマン博士が解説

「マムダニ氏の当選は異常なことではありません」

そう分析するのは宗教学者でニューヨークのイスラム文化や現代史に詳しいケイティ・メリマン博士だ。

ケイティ・メリマン博士:
彼は“ニューヨークの日常”の一部にすぎません。アフリカ系と南アジア系の血をひく移民で、ヒップホップを愛し、地元の有名な高校に通う…彼の物語はまさに『ニューヨーク物語』であり、特異な背景があるわけではないのです」

「マムダニ氏の当選は異常なことではありません」
「マムダニ氏の当選は異常なことではありません」

ニューヨーク市にはアフリカのみならず、シリアやトルコ、レバノン、南アジアから移民とともにイスラム文化が複雑に入り組んだ形で流入してきた歴史がある。メリマン博士は続ける。

ケイティ・メリマン博士:
ニューヨークでイスラム教徒として生きるということは、家賃を払えるかどうか、健康保険に加入できるかどうかといった問題だけでなく、自分たちの宗教が政府によって尊重されるのか、不当な取り締まりから守られるのか、といった課題にも直面することになります。
ですから、イスラム教徒が直面する問題は、実際には全てのニューヨーカーが直面する問題でもあるのです。

メリマン博士による「イスラム文化・歴史ツアー」
メリマン博士による「イスラム文化・歴史ツアー」

ニューヨークのイスラム文化や歴史をもう少しひもといてもらおうと、メリマン博士が連れていってくれたのは、マンハッタンのハーレム地区だ。

当時あった書店でのマルコムX(左)とモハメド・アリ(右)
当時あった書店でのマルコムX(左)とモハメド・アリ(右)

ハーレムには、1965年に暗殺された黒人指導者でイスラム教徒のマルコムXにまつわる歴史的な拠点も多くあり、南北にのびる大通りは「マルコムX通り」と名付けられている。

銃撃され瀕死のマルコムXの頭を支えていたのは、ハーレムを拠点にしていた日系2世のユリ・コウチヤマだという事実も知られている。

ハーレムにはマルコムXゆかりの地

メリマン博士によると、ニューヨーク市内には現在、400近くのモスクが存在する。マルコムXがオフィスを構えていた116丁目のモスクは上に緑のドームがあり、目をひく。

しかし、町中には小さなモスクも数多くあるという。

マルコムXが説教をしていたモスク
マルコムXが説教をしていたモスク

ケイティ・メリマン博士:
モスクのイメージは人それぞれだと思いますが、実はアメリカの最も典型的なモスクはいわゆる“店舗型”で、賃貸スペースを利用し、この多様な都市の中で自分たちに祈りの場を設けるために、ニーズにあわせてつくられています。

町中のアパートと並ぶモスク
町中のアパートと並ぶモスク

確かに、案内してもらった住宅街のアパートや商店に並んで、看板がかかった「モスク」があり、注意をしていないと気づかずに通り過ぎそうになる。

旗には「正義・自由・平等・イスラム」の頭文字「JFEI」
旗には「正義・自由・平等・イスラム」の頭文字「JFEI」

1930年代にはミシガン州デトロイトから政治・宗教運動組織「ネーション・オブ・イスラム(Nation of Islam=NOI)」がハーレムに進出し、他の運動とも合わさってイスラム教への改宗の動きが盛んになった。

「NOI」では奴隷制による蔑視と虐待の歴史によって傷つけられた人々を「正義・自由・平等・イスラム」という理念で再生することが約束された。

「Nation of Islam」の信者が販売する日用品など
「Nation of Islam」の信者が販売する日用品など

信者が販売する路上の店には、この団体の書籍や機関誌などのほか、せっけんや歯磨き、そしてアメリカ人の黒人イスラム教徒の自立と抵抗の象徴である「Navy Bean Pie」などが並ぶ。白インゲン豆でできたデザートパイだ。

日本だと豆を甘く煮る「あんこ」の文化はあるが、アメリカではほとんど見かけない。

白インゲン豆のパイは「白あん」に近い味
白インゲン豆のパイは「白あん」に近い味

7ドルで買った小さなパイにナイフを入れると、中はねっとりとしていて、味はスパイスが効いたバター風味の「白あん」のパイといったところか。あの伝説のボクサー、モハメド・アリの好物だったという。

メリマン博士は「ニューヨークのイスラム文化と歴史のあくまでも一部」だと強調してツアーを終えた。未知だったエリアに少し足を踏み入れた後、4年あまり滞在しているニューヨークの風景が、また違った形で見えてきた。

【執筆・取材:FNNニューヨーク支局長 弓削いく子、撮影・取材:ハンター・ホイジュラット、森田アンドリュー】

弓削いく子
弓削いく子

心身を整えるためにヨガをこよなく愛す。
Where there’s a will, there’s a way.
FNNニューヨーク支局長。ニューヨーク市生まれ。1993年フジテレビジョン入社、警視庁、横浜支局、警察庁、社会部デスクなど、駆け出しは社会部畑。2010年からはロサンゼルス支局長、国際取材部デスクを経て現職。