ちなみに個人が自宅周辺に罠を設置して対策することはできるのだろうか。答えは「ノー」だ。
「野生動物の捕獲は、狩猟免許と行政の許可が必要です。個人が箱罠を置くことは原則できません」(山村さん)
箱罠は、一般家庭や町内会などが独自に設置することはできず、狩猟免許を持つ猟友会員などが自治体の要請で設置する形が一般的だ。つまり“個人の防衛手段”として罠を導入するのは、現行法では難しい。
もしクマの出没などで困っている場合は、まずは自治体に相談し、専門機関や猟友会などの正式な対応を仰ぐことが重要だ。
ゾーニングを導入した長野県箕輪町
罠はかけられなくとも、やれることはある。
人口減少や過疎化により里山の管理が弱まり、山と里の境界が曖昧になるほど、人とクマの距離は縮まっていく。
「境界を守るのは“人の手入れ”です。草を刈る、放置された果実を片づける、戸締まりをする…。そうした日常の行動が、クマ対策につながります」(山内さん)
長野県箕輪町は、人の生活圏・緩衝帯・野生動物域を区分する「ゾーニング」を導入して成功した例だ。住民と連携して刈り払いを徹底し、場所によっては電気柵も設置。導入後は人的被害がゼロとなり、目撃件数も2024年の19件から今年は9件へと減少(11月20日時点)、町の奥深くに入り込む事例もなくなったという。
クマが身を隠して移動できる場所や、果実など誘引物のある場所を増やさないこと。派手さはないが、これがクマを山へ返す道の一つであり、駆除一辺倒にしないための前提だ。
風来堂(ふうらいどう)
旅、歴史、アウトドア、サブカルチャーが得意ジャンルの編集プロダクション。『クマから逃げのびた人々』、『日本クマ事件簿』(以上、三才ブックス)など、クマに関する書籍の編集制作や、雑誌・webメディアへの寄稿・企画協力も多数。
