クマ捕獲の現場は山から街へ
「以前は山の中腹や林縁で捕獲していましたが、今はもう“平場”です」。そう話すのは、クマ用箱罠を製造する栄工業の山村則子さんだ。
「畑や工場の敷地、道路脇など、人のすぐ近くで捕まるケースが本当に増えました。今年は例年以上に問い合わせが多く、出荷数も急増しています」(山村さん)
栄工業の箱罠はドラム型で、内部に引っ掛かりが少なく、捕獲後に爪やキバを傷めにくいのが特徴だ。かつては、捕獲しても駆除せずにクマの嫌がる刺激を与えて山に戻す「学習放獣」が主流だったため、フィールドに返した後も自活できるよう、傷を負わせない設計が重視された“やさしいワナ”だ。
「いわゆる獣道といいますが、クマは同じ道を繰り返し通る習性があります」と、自身もハンターである山村さん。
「罠を置けばかかるものではなく、まずは餌付けが必要です。動物は通い慣れた道に異物があると警戒して近づきません。まずはセンサーカメラで『どこから来るか』を確認し、その導線上に箱罠を置いてしばらく餌だけを与えるんです。安心して中で採餌しているのを確認できてから、初めてワイヤーを通してセットします」(山村さん)
山村さんは、現在の現場の状況に複雑な思いも抱いている。
「これまでクマは保護の対象でした。本来は“やさしいワナ”で棲み分けを図るはずが、今、現場では駆除が前提として求められています。正直、複雑な心境です。人が襲われるのは重大事態で、迅速な対応は不可欠。そのうえで、クマを本来の生息域へ押し戻す『棲み分け』の徹底が必要だと改めて感じます」(山村さん)
