まず山の餌不足。さらに過疎化や高齢化で耕作放棄地や空き家が増え、里山の管理が弱まり、山と人里の境界が曖昧になったこと。放置された柿やクリの実は誘引源となり、ハンターの減少や、保護政策による個体数の回復も拍車をかける。
こうして人の生活圏で餌を得る“成功体験”を重ね、人への警戒を失って市街地周辺に定着するクマを「アーバンベア」と呼ぶ。結果として、人との距離が縮まり、遭遇件数と事故のリスクは高まる。
さらに危惧されるのは、出没が秋だけの問題でなくなることだ。人里で冬も十分に餌が得られる状況が続けば、冬眠しない個体が出てくる可能性がある。
クマを“凶悪犯”にしないために
人を襲うかどうかを決めるのは、クマの本性ではなく経験だ。
そしてその経験を与えるのは、私たち人間の行動にもかかっている。恐れるべきはクマそのものではなく、「クマに学ばせてしまう人間の環境」ともいえるのではないだろうか。
クマは本来、豊かな森林環境をつくる重要な野生動物だ。だからこそ、人の生活圏と山の行動圏を分け、クマを本来の生息域に押し戻す「棲み分け」を徹底し、問題個体を生まない環境を維持することが要となる。
草刈りによる見通し確保、放置果実や生ゴミの管理、建物や倉庫の戸締りの徹底…。「人を襲うクマと襲わないクマの違い」とは、突き詰めれば、人間がどれだけ“学ばせない環境”を維持できるかにかかっているのではないだろうか。
風来堂(ふうらいどう)
旅、歴史、アウトドア、サブカルチャーが得意ジャンルの編集プロダクション。『クマから逃げのびた人々』、『日本クマ事件簿』(以上、三才ブックス)など、クマに関する書籍の編集制作や、雑誌・webメディアへの寄稿・企画協力も多数。
