人間の生活圏で餌を得る“成功体験”を積むことで、クマは恐怖心を失い、行動が大胆になる。山内さんは「コソ泥が凶悪犯に変わるようなもの」と表現する。

先の加害クマも、人を襲う目的で家に入ったのではなく、食料を探して侵入したとみられている。事件の数日前には別の家の廊下で米を食べていたことも確認されている。つまり、人間を標的にしたのではなく、たまたま鉢合わせてパニックに陥り攻撃に転じた可能性が高いというわけだ。

「人を襲った経験」が行動を変容

人間を捕食目的で襲うことはほとんどない。しかし、過去に人を襲った、あるいは人の死肉を食べた経験をもつ個体は違う。

2016年5~6月、秋田県鹿角市と青森県新郷村にまたがる十和利山の山麓で、タケノコ採りに入った人々が相次いでクマに襲われた。いわゆる「十和利山熊襲撃事件」だ。

被害は死亡4人、重軽傷4人にのぼり、本州では最悪規模、国内でも過去3番目の深刻な獣害とされる。

クマのキバ(イメージ)
クマのキバ(イメージ)

山内さんによれば、加害個体の胃から人の肉片や頭髪が確認されている。最初の襲撃は偶発的だった可能性があるものの、後半の事例では「クマが人に向かっていった」という証言もあるという。きわめて稀ではあるが、人を襲うことを学習した異常な個体が出現した可能性を示唆している。

「“人を襲って食べた”という経験が、クマの行動を大きく変えてしまうんです。一度それで食料を得られると学習した個体は、再び襲う可能性が高い。そのため、こうした個体は早期に捕獲・駆除する以外にないんです」(山内さん)

増えるアーバンベアと広がるリスク

近年、クマが人の生活圏に現れるのは、複数の要因が重なった結果だ。