石川県輪島市の復興のシンボルとして位置づけられているのが、大規模な火災があった朝市通り周辺だ。今は更地が広がっているが新たな姿を模索しようと、関係者による話し合いが少しずつ進んでいる。
「なんでこうなったんだろう」
約5万平方メートルの輪島市の朝市通り周辺。更地が広がるこの場所は、輪島の人たちにとってかけがえのない場所だった。
「すみません、朝市どこけ?」と住民に聞く観光客がいた。住民は「出張朝市は向こうのワイプラザっていうショッピングセンターの中なので、ここにはないです。ここは朝市が元々やってた場所」と答えた。

観光客に答えていた住民は、日吉酒造店の日吉智さん。
「去年の8月にはだいぶ更地にはなっていたんですね。その時にふと考えたら今まで見えなかったものが見えてるわけですよね。あの橋なんて見えませんでしたし。今までと違う光景というのがふとした時に、『なんでこうなったんだろう』と思ったこともありますし」
見えない復興の形
日本三大朝市の一つ「輪島朝市」。朝市通りの両側にオレンジ色のテントが並び、ピーク時は年間200万人を超える観光客が訪れたという。しかし2024年元日、地震にともなう大規模火災に見舞われた。

日吉さんは鎮火した後の光景について「外から来た方が戦争があったのと言うくらいの焼け野原状態。これが片付くのがどれくらいかかるんだろうと思いながら過ごしてた」と振り返った。
日吉さんは朝市通りのある本町周辺地区の住民の代表として、輪島市などと復興プランについて話し合ってきた。
「生まれも育ちもほとんどここですね。この部分が店舗兼住居って感じで、この2階とかに当時は住んでて、店舗は半壊って扱いなんですけど後ろの酒蔵の部分は、製造の部分というか土蔵とか全て全壊という扱い」
今、復興へと向かう光が見えてきているのか聞くと「自分の中では見えてないです。まちづくりに関しては。余計なんか震災当初よりももっと迷いに入っている状態ですね」と答えた。
土地の境界が決まっていない
現在、輪島市は火災で焼失したエリアで区画整理の準備を進めている。再建を諦めた住民から土地を買い上げた上で、新たな道路や施設を整備するため、住民が所有する土地を移転することも行う。
「協議会では、まだこの町をどうするかっていう細かい話まではいってなくて。地権者自身も皆さん、自分の土地がどういう風な形でどこにっていう境界線がはっきりしていない状況なので、何も進めない」

輪島市は2026年の春をめどに新たな土地の境界を定めたい考えだ。それまで住民はこの場所で事業や生活を立て直すことはできない。
「地域住民、商店関係、あと朝市とか色々皆さんいますけど、皆さんが自分が今どういう風にしたいかっていう理想をまだ語っている段階かなと自分は思ってて、今後その理想からどういう風に現実的にすり合わせしていくかっていう話になっていくのかなと」
「時間がかかれば離れていく」
朝市通りから少し離れたところに一軒の印刷所がある。経営者の高森健一さん。朝市通りのそばに事務所を構えていた。
高森さんは地震後に撮影された動画を見せてくれた。「うちの女房のお兄さんが見に行ってくれたの、燃えているときに。まぁこうなっちゃったんだなっていう印象でしたよ」
かつての朝市通りの両側に店舗を構えていたのが、本町商店街だ。高森さんはその代表を務めている。
商店街で事業をしていた店の人たちについて聞くと「輪島にいる人間は3分の1くらいかな。皆さんまだ避難状態というか。自分のところで建物を作ることもできないんで、だから逆に違う仕事にとりあえず就いている人もいる。まぁアルバイトみたいなもんかな」と話した。

本町商店街は火災で店舗を失った事業者らがいち早く事業を再開できるように、仮設店舗の建設を輪島市に求めた。(2025年11月時点で)14店舗が入る予定で、2027年春のオープンを目指している。
「時間がかかればかかるほど離れていく人間が多くなっちゃうから、やっぱり1年でも1か月でも早くやれることはやった方がいいんじゃないかなという思いでやっていますけど」
利用期限が終わった後は、仮設店舗の施設を活用しつつ、商店街のにぎわいを取り戻していきたいと考えている。
テントのイメージを残したい朝市組合
輪島市朝市組合の組合長、冨水長毅さん。
「今年6月に入って、今現状38店舗プラス農家の方々も入りますので、組合員数で言うと50人近い方が復帰をされてこちらのワイプラザの方へ出店している。去年より全然バスの入り込みが多い。応援ツアーとかそういうのが今入ってますね」
商業施設内で営業を続けている出張朝市の出店者は「やっぱりありがたいことですよ。ほら雨にも当たらず風にも当たらず最高ですよ。だって風が吹いた、台風が来た、あれが来たで結局商売できん時もあったし」と話す。
今後の話を聞くと「どうなるかね。もうほらだって一寸先はわからんだろ。自分きょうは健康だけど明日はわからんし、あんまり考えてないね」と答えた。

輪島市朝市組合がこの商業施設で出店できるのは、2027年夏までの予定だ。冨水さんは輪島市に対して、朝市通り周辺に雨や雪をしのげる屋根付きの広場の整備を求めている。
まだ具体的なスケジュールは出ていないが、将来的には朝市通り周辺に屋根付きの広場と本町商店街の仮設店舗が整備され、通りと広場の両方にオレンジ色のテントが並ぶことになるかもしれない。

冨水さんは「僕らのイメージはこのテントのイメージですからこの雰囲気を残したい。先は長いので、これを切らさないようにいくというそういった忍耐は非常に大変だと思うんですけど。やらないとやっぱり能登が衰退すると思うので、ただただやらないと」と話した。
住民、商店街、朝市組合。立場や事情は少しずつ異なるが、みなが望んでいるのは街のにぎわいを取り戻すこと。何年先になるか見通すことはできないが、朝市通りは以前とは異なる新たな姿での復興を目指している。
(石川テレビ)
